著者のコラム一覧
伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

そのジェンダー観、ホントに合ってる?「ガンパウダー・ミルクシェイク」が描く“女性解放”!

公開日: 更新日:

女性らしさ」「男性らしさ」とはなんなのか?

 それは異性から好感を持たれる為の服装や対応などで記されることが多くあります。たとえば、女の子の物はピンクで男の子の物は青と区別されがちで、自然と「固定概念」を子どもにも植え付けてしまっているわけですが、今、その“らしさ”さえもが「差別用語」であると言われています。

 映画も「女性や子どもを守るのが男性の役目」という思い込みから、世界を守る為に男性主人公が奮闘するアクション映画が数多く誕生してきました。そんな偏った考えを正すべく、『スターウォーズ』はEP7「フォースの覚醒」(2015)から主人公を女性にシフトチェンジ、女性もジェダイ騎士になれることを世界に伝えたわけです。

 そして、3月18日に日本公開となる『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、男性であるナヴォット・パプシャド監督が女性解放を客観的に捉えながら、女性の多面的な魅力を称賛する作品を手がけました。

女殺し屋が旧態然とした男社会に打ち込む弾丸

 まず、掴みが斬新です。“ファーム”という男だらけの会社に雇われている女殺し屋が、彼らの後始末に疑問を抱き、誘拐された幼い女の子を守りながら、図書館で武器のレンタルを行う自身も凄腕という3人の女性たちと共に“ファーム”と戦うシスターフッド映画。ここで注目したいのが、主人公のサムはオレンジのスカジャンにスウェットパンツ、表向きは図書館員である3人の女性もトラディショナルなパンツスタイルであることです。

 あくまで動きやすさを重視しつつ、「女性らしいファッション」でのアクションに意味を持たせないジェンダーレスな出で立ち。しかも本の中に隠された武器という設定で、ジェーン・オースティン、シャーロット・ブロンテ、ヴァージニア・ウルフ、アガサ・クリスティという女性作家を紹介したり、目玉となる銃撃戦ではジャニス・ジョプリンの「心のかけら」が流れます。

 さらに自分はフェミニストであり、娘の為に部屋の壁をピンクにしてユニコーンを買ったと豪語する悪党に「その考えこそ固定概念である」と言うように弾丸を打ち込むシーンありと、とにかく細部まで行き届いた女性応援アクション映画なのです。

女性だけにターゲットを絞らない、映画としての個性

 加えて、作り手はサムにパンダのスーツケースと子ども用携帯電話を持たせたり、殺し屋なのにミルクシェイクを好むギャップや、可愛らしいウェイトレスのファッションを50オーバーの大人の女性に着用させるなど、年齢を気にせずに好きなものを身につけることが真の解放だと伝えているようで好感度も抜群です。

 それでいてクエンティン・タランティーノ映画から影響を受けているであろうキャラクター設定や色使いと、随所に散りばめられた日本贔屓なアイテムも独自のセンスとして際立っていて、ターゲットを絞らずに生み出された絶妙なバランスに思わず唸ってしまうのです。

 これほど興奮したアクション映画に出会え、嬉しささえ感じたのは私が女性だからなのでしょうか?いいえ、きっと男性にも伝わるものがあるはず。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    朝ドラ「あんぱん」豪ちゃん“復活説”の根拠 視聴者の熱烈コールと過去の人気キャラ甦り実例

  3. 3

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  4. 4

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  5. 5

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  1. 6

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  2. 7

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  3. 8

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波