【対談】早見優×音楽プロデューサー松尾潔「40年越しの邂逅」「33年前の奇跡のニアミス」

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「今だから言えるけど、アイドルを演じきれなかった部分はありました」(早見)

早見 不思議ですね。映画でも「同じ場所にいるのに、会えずじまい」みたいな作品ありましたよね。そのとき会っていたらどうなってたかな……。確かにMZA有明には、一時期、私もよく足を運んでいたんです。それからもニアミスはなかったですか?

松尾 なかったですね。そのうち「早見優って実在してるのかな?」「ブラックホールなんじゃねえの?」みたいに思って(笑)。

早見 いますよ!

松尾 そのくせユーチューブの早見さんのチャンネルを見て「そうそう、優ちゃん、肉うどんとか作るよねえ。期待裏切らんわ」とか思ったりして、もはや現実と虚構がわからなくなってる(笑)。

早見 何の話ですか(笑)。ただ、あの頃を思い出すと、今ならもどかしくなることの連続ですよね。「逢えそうで逢えない」とか「受話器を置いて」とか、そういう歌詞もあったじゃないですか。アナログとデジタルと両方経験しているのはすごく貴重な気がします。

松尾 この10年間、急激な変化ですもんね。

早見 そうは言っても、80年代は楽しかった。街も人もキラキラして「また、ああいう時代来ることはあるのかな?」って思ったりもします。レコーディングひとつとっても、昔は広いスタジオに何人ものスタッフが集ったものですけど、最近ある曲の歌入れをしたらアパートの一室でやったんです。「ここでとる!?」って。便利になったってことでしょうけど。

松尾 昔はお金が潤沢にあったんですよね。あの時代の芸能界って、メディアを使ってイメージを増幅させながら「愛されるモンスター」を見事につくり上げていましたよね。それに乗って、聖子さんや明菜さんみたいに、照れることなくグイグイいけちゃう人もいて。

早見 ところで、松尾さんは新人アーティストをプロデュースすることもあるんですか?

松尾 時には。新人の場合「いかに最大瞬間風速を狙うか」みたいなところがあるんだけど、言ってみれば「82年組」ってその集合体でしょう。

早見 本当にそう。伊代ちゃん、明菜ちゃん、キョンキョン……。期せずして凄いメンバーの中に放り込まれた感じはありました。

松尾 そんな中においても、早見さんにはONとOFFがないように僕の目には映った。それが中学生の自分には新鮮だったんです。

早見 今だから言えるけど、アイドルを演じきれなかった部分はありました。

■文房具屋で1万円を出したら…

松尾 要するに、時代が早見優に追いついたのかもしれない。「普通でいい」っていう。最近も「仕事辞めてスタバで働こうかな」って思ったんでしたっけ(笑)。

早見 アハハ。だって、コロナが始まった頃、外出もできなくて何にもしてなかったから。ただ、いろいろ思い出すんですけど、大学生になった頃、消しゴムを買おうと思って文房具屋さんで1万円出したら「消しゴム買うのに1万円出すやついる?」って友達に呆れられたんです。あれは恥ずかしかった。「芸能人である前に、人間として成長しなきゃいけない」って思った瞬間でした。

松尾 それが今の早見優につながっているんだなあ。マネジメントの正しさもあったのかもしれない。すべての楽曲がそうとは言わないけど、82年組の新人の中で唯一、早見さんには早い時期からブラックミュージックやダンスミュージックへの明確なアプローチが感じられた。それは僕にとっては非常に大きいことでした。

早見 ただ、当時のシングルレコードの傾向を振り返ると、最初は試行錯誤していたんです。デビュー曲も本当はB面の「潮風の予感」だった。それが資生堂のCMが決まって「急いで!初恋」が急きょ出来上がった。その後も歌謡曲っぽいものを歌ったかと思えば、バラードにいったり、洋楽テイストとか、結構バラつきがあるんです。コカ・コーラのCMが決まって、5枚目の「夏色のナンシー」でイメージが固まったんじゃないかな。

松尾 確かに。「夏色のナンシー」をデビュー曲だと思っている人もいますよね。でも、40年経ってもこうして輝いているのが、正解だったんじゃないですか。

早見 終始、褒めまくっていただいて(笑)。

■ロールモデルは「湯川れい子先生」(早見)

松尾 ところで、ロールモデルにしているような方はいらっしゃるんですか?

早見 そうですね……そのシーンにおいて違うんですけど、湯川れい子先生とかカッコいいですよね。チャーミングだし、セクシーだし、キュートだし、コケティッシュだし。

松尾 よくわかります。僕も可愛がっていただいてますが、本当にすてきな女性ですよね。

早見 知識も記憶力もすごい。昔の話をしていて「えーっと、アレアレ」がないんです。「それはね」ってすぐ答えが出てくる。私には作詞をしたいとか、音楽評論をしたいとかそういう願望はないけど、「ああ、なりたい!」って思えるすてきな存在です。

松尾 満額回答です!(笑)

早見 いや、だから、もう……(笑)。(おわり)

 ◇  ◇  ◇

▽早見優(はやみ・ゆう) 1966年、静岡県出身。上智大学卒。7歳から14歳までハワイで育つ。ハワイでスカウトされてサンミュージックと契約。1982年4月、シングル「急いで!初恋」でアイドル歌手としてデビュー。同期には石川秀美、松本伊代堀ちえみ小泉今日子中森明菜らがおり「花の82年組」と呼ばれる。2022年にデビュー40周年を迎えた。

松尾潔(まつお・きよし) 1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

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