著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画で理解するパレスチナ問題(中編)報復劇のむなしさを暴いたスピルバーグ監督作「ミュンヘン」

公開日: 更新日:

 他方、パレスチナでは、対イスラエル強硬派「ファタハ」を率いていたアラファトが69年にPLO(パレスチナ解放機構)の議長に就任。熾烈極まる武装闘争路線を推し進め国際テロを起こしていく。

 72年の西ドイツ・ミュンヘン五輪では、PLO武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団11人を殺害。スティーブン・スピルバーグ監督(写真)の「ミュンヘン」(05年)は、二度とイスラエル人を狙わせないためにゴルダ・メイア首相からPLO関係者暗殺を命じられたモサド工作員(エリック・バナ)の葛藤を描く。「なぜテロという野蛮を行うのか」と問うエリック・バナに対してアラブ人は「俺たちを野蛮にしたのはおまえらだ」と返す。本作品が公開時に物議を醸したのは、果てしない報復劇のむなしさを暴いているからだ。

 76年のエンテベ空港事件を題材にしたのがジョゼ・パジーリャ監督「エンテベ空港の7日間」(18年)だ。パレスチナ解放人民戦線とドイツ過激派がエールフランス航空機をハイジャック、ウガンダのエンテベ空港に着陸させる。乗客乗員106人を人質に取り、投獄されているパレスチナ囚人の釈放を要求したのだ。イスラエル国防軍特殊部隊「サイェレット・マトカル」が国境を超えて空港を強襲、テロリスト全員を殺害して人質を救出するが、指揮官ヨナタン・ネタニヤフ中佐が敵の凶弾に倒れる。現首相ベンヤミン・ネタニヤフの実兄だ。Netflixドキュメンタリー「シモン・ペレス 生涯の軌跡-夢を信じて-」(22年)は、ペレス外相が棺を迎えネタニヤフを追悼する光景を映し出している。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  2. 2

    「備蓄米ブーム」が完全終了…“進次郎効果”も消滅で、店頭では大量の在庫のお寒い現状

  3. 3

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  4. 4

    さや氏の過去と素顔が次々と…音楽家の夫、同志の女優、参政党シンボルの“裏の顔”

  5. 5

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  1. 6

    参政党のあきれるデタラメのゴマカシ連発…本名公表のさや氏も改憲草案ではアウトだった

  2. 7

    参政党「参院選14議席」の衝撃…無関心、自民、れいわから流れた“740万票”のカラクリ

  3. 8

    オレが立浪和義にコンプレックスを抱いた深層…現役時代は一度も食事したことがなかった

  4. 9

    参政党・神谷宗幣代表「日本人ファースト」どこへ? “小麦忌避”のはずが政治資金でイタリア料理三昧

  5. 10

    ドジャースに激震!大谷翔平の“尻拭い役”まさかの離脱…救援陣の大穴はどれだけ打っても埋まらず