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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

2023年「秀作ドラマ」トップ5を総括…第5位「何曜日に生まれたの」から1位のNHKドラマまで

公開日: 更新日:

人生の苦みや痛み、再び生きるための旅を描いた「グレースの履歴」

【第1位「グレースの履歴」】
 (NHK・BSプレミアム、3月19日~5月7日放送)


 製薬会社の研究員である蓮見希久夫(滝藤賢一)は、子どもの頃に両親が離婚し、唯一の肉親だった父も他界した。家族は家具のバイヤーである妻、美奈子(尾野真千子)だけだ。

 仕事を辞めることにした美奈子は、区切りの欧州旅行に出かけ、不慮の事故で急死してしまう。希久夫は現れた弁護士から、実は美奈子が命にかかわる病気の治療を続けていたことを告げられる。残されたのは美奈子が「グレース」と呼んでいた愛車のホンダS800だけだ。カーナビには彼女が打ち込んだ、いくつもの住所があった。

 このドラマ、今は亡き愛する人が仕掛けた謎を追う、いわばロードムービーである。古いクルマでの移動だからこそ味わえる、美しい日本の風景。歴史のある街で出会う、かけがえのない人たち。そこには人生の苦みや痛みもあるが、まさに再び生きるための旅だ。それを深みのある映像と、絞り込んだセリフで構成することによって成立させていた。制作会社はオッティモ。見事な“大人のドラマ”の原作・脚本・演出は「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー~」などの源孝志だ。

【2024年への期待】

 最近の傾向ではあるが、今年は特に漫画原作のドラマが目立った。「きのう何食べた? season2」(テレビ東京系)や「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日系)といった佳作もあるが、原作に“おんぶに抱っこ”の作品も皆無ではない。今回挙げた5作は、結果的にいずれも「オリジナル脚本」だ。ドラマの根幹である人物像とストーリーがゼロから創り上げられている。そこにはドラマならではの新たな挑戦があり、ドラマでしか堪能できない醍醐味がある。

 来年も、漫画や小説を足場にしたドラマに加え、1本でも多くのオリジナル作品が登場することを期待したい。それが見る側の気持ちを揺さぶるドラマであれば大歓迎だ。 

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