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北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画芸術の頂点に立つクリストファー・ノーラン監督はなぜ「オッペンハイマー」を題材にしたのか

公開日: 更新日:

 そのノーランがなぜオッペンハイマーを題材にしたのか。それはおそらくオッペンハイマーの苦悩が「時間の交錯」を象徴しているからだ。核兵器の出現によって人類滅亡のリスクが不可逆的に現実化し、世界史はオッペンハイマーの前と後で二分された。量子物理学が牽引する科学技術文明の「進歩」と、核兵器という野蛮の「退行」は彼において交錯する。極めてノーラン的な主題がここにはある。1960年に訪日した際、「広島に行くかどうか」を逡巡するオッペンハイマーに作家・堀田善衛は、“Naturellement, you should go to Hiroshima”(義務感からではなく、淡泊に、あなたは広島に行くべきだ)と告げるが、「ナチュレルマン」という仏語に「物理学的に」という意味もあることを後から知って背筋が寒くなったという(大江健三郎との往復書簡「核時代のユートピア」朝日新聞84年)。オッペンハイマーは結局、広島を訪れていない。

 劇場公開は3月29日から。ウクライナやガザの戦争で核使用が言及される今だからこそ、本作品を見に行くべきだ。自然体で、できればIMAX映画館で。

(北島純/映画評論家・社会構想大学院大学教授)

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