元NHK武内陶子アナが振り返る「一度だけの紅白総合司会」…抜擢への不安、究極の生放送で起きた“事件”

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審査の電光掲示板に「356対1万6000」みたいな結果が!

 前向きになれたとはいえ、当日までは不安で仕方なかった。紅白の現場は関係者以外立ち入り禁止で、番組スタッフでなければ職員もバックステージさえ入れない。だから、私はリハーサルから現場を初めて目の当たりにしたんです。

 完璧な段取りは1週間前にならないとわからない。リハーサルは30日と31日の2日間だけで前半と後半に分けて1度だけ行う。

 当日私は上手、下手と走り回り、今思えば究極の生放送と言えました。

 テレビにステージが映っていない間、セットチェンジで建て込む音がドンドン! ガンガン! とすさまじく、「なんとかしろ!」と怒号も飛び交うほど。私はお客さんを前にしてスタッフからの「巻け!(早く進行しろ)」とか「延ばせ!」とかいろんな指示を受けて台本のどこを削り、どこを言うか、またはアドリブで何を加えるかを瞬時に判断しなきゃいけなかった。約62組の歌手がいらして、紹介やセットチェンジで1組1秒ズレただけでも1分ズレるわけですからね。

 そこはずっと携わってきた報道が生きましたよ。生放送で全部、自分に任された時の修羅場を経験してきてよかったと思います。

 でも、最後の最後で事件が起きてしまったんです。審査といえばお客さんそれぞれが判断し、野鳥の会の方々が集計するシステムがお馴染みでしたが、この年はテツandトモやはなわさんなど芸人さんも出場したお笑いブームの最中で、「爆笑オンエアバトル」という番組のやり方を取り入れていました。お客さん一人一人に渡された小さな玉を紅か白のレーンに転がしてもらい、ステージで紅白それぞれのバケツの重さを計量する方法。

 その年は視聴者が審査に参加する「デジタルお茶の間審査員」も併せて集計したのです。

 まずは会場のお客さんの票の結果が320対596とか電光掲示板に出る予定でした。リハでは一度も失敗がなかったんです。

 なのに本番で、356対1万6000みたいなあり得ない数字が電光掲示板に出てしまって!

 その瞬間、誰もが凍りついてどうしていいかわからない。「ここは私がどうにかしなきゃいけないんだ」と決意し、準備の日からずっと一緒だった、私の目の前にいる女性のフロアディレクターに「今から勝手にしゃべるからね!」と目で合図。でも、その一瞬後にシステムが直ったんですよ。ホッとしました。

 ちなみに、システムが復旧しなければ「係の人、出てきて!」と叫ぼうと思ってました(笑)。そして5人のアナウンサーでつなぐと。

 結果は白組の完封勝利。「白組の勝利!」と叫んで、優勝旗授与があり、「よいお年をお迎えください」と締めくくり「蛍の光」の演奏が流れ、番組が終わった時はたとえようのない気持ちでした。谷村新司さんや和田アキ子さんが「よくやったね!」と駆け寄って褒めてくださったんです。でも、私は手応えがなくて何とも言えない気持ちでした。

■夫が「よくやった」と言ってくれて号泣

 翌日からはオフで夫とタイで過ごしていました。

 紅白から3日後の1月3日、夫が「それにしてもよくやったよね」と一言言ってくれた瞬間、ようやく温かい血が体に戻ってきて、号泣してしまったんですよ。

 その時になって初めて「終わったんだ……私、よくやったのかもしれない」と思えました。3日後まで緊張が解けてなかったんです。

 33年間、局のアナウンサーをやらせていただきましたが、紅白の1度の司会経験のおかげで、どんなことも怖くなくなりました。

 いつか故郷に恩返ししたいと思い、去年、フリーになったので、今年から愛媛県の観光大使を務めさせていただくことに。さっそく道後温泉に入り、湯ばあたちと交流してきました(笑)。いいところですので、ぜひお越しください。

(聞き手=松野大介)

▽武内陶子(たけうち・とうこ) 1965年4月、愛媛県出身。91年にNHK入局。「NHKニュースおはよう日本」「スタジオパークからこんにちは」など多数の番組に出演。現在フリーアナウンサーとして活躍。今年から愛媛県の観光大使に。

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