元NHK武内陶子アナが振り返る「一度だけの紅白総合司会」…抜擢への不安、究極の生放送で起きた“事件”

公開日: 更新日:

武内陶子さん(58歳/フリーアナウンサー)

 昨年、NHKアナウンサーからフリーに転身した武内陶子さん(58)。忘れられない瞬間は2003年「紅白歌合戦」の総合司会。抜擢に不安を抱えながら、究極の生放送をどうにか乗り切ったという。

■突然「今年は武内にやってもらう」と言われ…

「総合司会を」と言われたのは11月半ばでした。とても秘密裏に伝えられて。

「○日の○時にこの部屋にいらっしゃい」と言われ、行くとアナウンサーが5人呼ばれていました。

「今年の紅白は総合司会を武内にやってもらいます。紅組司会は有働由美子膳場貴子、白組は阿部渉、高山哲哉。この5人で。このことは誰にも言わないように。以上!」と。それだけで終わり。

 言われた瞬間は訳がわからず、「なんで私なんですか」と聞き返しました。というのも、他の4人はこれまで司会やリポーターとして紅白に携わっていましたが、当時38歳の私は紅白どころか芸能の番組にまったく関わってきませんでしたから。

 返ってきた答えが「今年はあなたにやってもらうことになったんですよ」とだけ(笑)。ただその年はアナウンサー5人だけで司会を務める特別な年だったんです。

 伝えられたのが金曜日で、翌週には発表会見になるのですが、その間が激動の日々でした。

 土日は地元の愛媛で40人程度の方にお話しをするイベントがありましたが、私は紅白のことで頭がいっぱいで。すると、質問コーナーでおひとりの方が「もうすぐ紅白もありますが、武内さんは紅白の司会はせんのですか」と質問されて! 驚きながらも「これだけは蓋を開けるまでわからないんですよー」とごまかしました。

■道後温泉の湯ばあ「これで一歩踏み出せらい!」の一言

 帰り、空港まで送ってもらう道の途中で突然「今から道後温泉に行った方がいい!」とひらめき、運転手さんに頼んで道後温泉で落としてもらったんです。近くに住んでいた頃は高校に行く前に朝湯に入りに来ていたんですよ。

 飛行機まで少し時間があるからと、すいている夕方の温泉に入っているとおばあさんが1人で入ってきました。私は毎日のように道後温泉に来るおばあさんたちを「湯ばあ」と呼んでいました。若い人に温泉の入り方のマナーを教えたりもしてくれるんです。まさにそんな湯ばあが「あんた、背中流してあげらい」と方言でいきなり声をかけてきて。

「え?」とビックリ。アナウンサーの私とは気づいていないようでした。裸ですしね(笑)。

「いいです、いいです!」とお断りしましたけど、「いいから、いいから」と私の背中を洗ってくれたんです。

「ありがとうございました」とお礼を言うと「元気になったかい?」と。

「あ、はい!」と返事すると「よっしゃー!」と私の背中をバン! と叩いて「これであんた、一歩踏み出せらい!」とおっしゃったんですよ。嘘みたいですけど、一言一句このままです。

 その瞬間、泣きそうになっちゃって。すぐに湯ばあは出ていき、「私、そんなに悩んだ顔してたのかなあ」と思いました。同時に「日本て、いいなあ、捨てたもんじゃないなあ」と前向きになれた瞬間でした。

 翌週の記者会見で「どんな紅白にしたいですか」と質問された時。

「大晦日に『日本に生まれてよかったなあ』と思えるような紅白にしたいです」

 そう答えられたのはまさに湯ばあのおかげ。それで気持ちを変えることができましたからね。家に帰って夫に湯ばあの話をしたら、「本当にこの世の人だったの?」と聞かれましたけど(笑)。

 でも、道後温泉に呼ばれたのは確かだと思いました。だから、帰りの途中で突然、寄り道したんでしょう。

 モヤモヤした気持ちのまま東京に戻って記者会見を迎えたくなかったのか、何かを洗い流してフレッシュな気持ちになりたかったのかわからないんですが。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  4. 4

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  5. 5

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  1. 6

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  2. 7

    森下千里氏が「環境大臣政務官」に“スピード出世”! 今井絵理子氏、生稲晃子氏ら先輩タレント議員を脅かす議員内序列と評判

  3. 8

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  4. 9

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

  5. 10

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々