著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

ナンノが歌う明菜曲に手拍子を打つ2024年になろうとは。

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♪恋人よ、これが私の一週間の仕事です。テュリャテュリャテュリャリャ♪

◆木曜(7月18日) 都内某所で著述家の北原みのりさんと初対面にして初対談。テーマは都知事選にはじまり、代理母出産、フェミニズムの現在地点、この国の未来まで。かつて、マニュアルを駆使してでも「愛される女」というステージを目指すことを全女子に強いるような空気が支配した時代があった。さほど昔のことでもない。あれは男にとってもツラかったなーとぼくは思うのだが、あれこそ良き時代だったと復活を願う男性(と女性)も少なくないようだ。だが、そもそもそんな「時代」は過去形にさえなっていないという現実を、北原さんのお話を聞いて痛感。その後、空間デザイナーの角章さんと、彼が手がけた新店舗で落ち合う。妖しく灯るトム・ディクソンのペンダントライトの下で和食をつまんで痛飲&談笑。NFTの可能性など。

◆金曜(19日) 男性デュオBREATHE(ブリーズ)の公演をビルボードライブ横浜で。メンバーの宮田悟志と多田和也は、ぼくがデビューに関わった三代目J SOUL BROTHERSのオーディションのファイナリスト。東日本大地震が起きた2011年にデビューしたものの16年に解散。21年に再始動した。十分すぎる辛酸を嘗めた先の物語を自分たち自身で描こうとする、その意気や良し。終演後は中華街のいつもの店で餃子・アフター・餃子!

◆土曜(20日) 本連載番外編の対談企画が大好評だった南野陽子さんの公演を丸の内コットンクラブで。「吐息でネット。」等のヒット曲はもちろん、この日のサウンドプロデューサーである国宝級編曲家・萩田光雄さんの代表作をカバーするコーナーも愉し。ナンノが歌う明菜曲に手拍子を打つ2024年になろうとは。

◆日曜(21日) 福岡音楽都市協議会が主催する宿泊型教育プログラム「Music Summer Camp Fukuoka」で作詞講座の講師を務めることになり、福岡市のアウトドア複合施設〈かしいのはまビレッジ〉へ。曲作りや歌唱はもちろん、ダンス、著作権までをも集中的に楽しく学ぶ2日間の合宿講座。参加資格は「18歳から29歳までの、音楽で何者かになることを目指す表現者」と非常にシンプル。これさえ満たせば宿泊費も食費もすべて無料という太っ腹企画である。やるなあ音楽都市・福岡! 現地に着くとすぐ、ダンス講座を終えて会場を出ようとする振付稼業air:manのみなさんとバッタリ。air:manは日本の有名どころのCMやMV(ミュージックビデオ)の振付を総なめにしているだけではなく、2015年には米国のロックバンド、オーケー・ゴーのMV作品で米MTV音楽賞の最優秀振付賞を受賞した凄腕ユニット。ユニットの顔・杉谷一隆さんはぼくと同じ福岡のご出身で、近年は「地元の仕事を増やしたい」が口癖とか。52歳だそうです。わかる。さて作詞講座。杉谷さんに会って気合いが注入されたせいか、およそ30名の参加者が作った曲全てをその場で講評するという無茶に走ったところ、予定の90分を1時間も上回る長尺講義になってしまった。才能ゼロの子なんていない。でも才能のカタチが自分ではまだ掴めていない子がほとんど。この日のぼくの業務は「君は美しい。なぜなら…」とエビデンスを添えた賛辞を送ること。彼らの自信につながるとよいのだけど。閑話休題。その夜たまたま通りがかったホテルのラウンジから聞こえてきたジャズボーカルとピアノがあまりに素敵で、そのまま酒をオーダー、結局2ステージも堪能。ボーカルの菅原花月さん、ピアノのミランダマサコさん、大人の夜をありがとうございます。ロックが有名とはいえ、ジャズの街でもあるよなぁ福岡は。

◆月曜(22日) 早朝から百道浜のRKB本社へ。いつもは東京の仕事場からオンライン出演しているラジオ「田畑竜介グローアップ」にスタジオ生出演。昨年10月から新たにMCに加わった橋本由紀アナウンサーと初めて対面。昨日が24歳の誕生日だったそう。輝いてるなぁ。おめでとうございます。番組では、鹿児島県警や兵庫県庁の所業は公益通報者保護法に違反している、委縮することなく声を上げる〈スピークアップカルチャー〉をこの国に根付かせようと提案したほか、発売間近のアヤ・シマヅ(島津亜矢)の新作アルバムを紹介する。午後は母校・県立修猷館高校の図書館へ。卒業生の著書を集めたコーナーの一隅に、高校時代に耽読した夢野久作『ドグラ・マグラ』と拙著が並ぶさまに感懐を覚える。たしか誕生日もぼくと一緒なんだよなぁ夢久は。その後は図書委員の2年生女子4名からインタビューを受ける。ちょっとタジタジ。で、こちらからも逆質問。愛読書を訊く。辻村深月、宮下奈都、筒井康隆などなど有名作家の名前が返ってくる。お世辞でもぼくの名前とか言わないんだなぁ。うん、これもまたその意気や良し!

◆水曜(24日) プロデュースしたアヤ・シマヅの『アヤズ・ソウルサーチン』の発売日および配信開始日。ソウルの女王アレサ・フランクリンの名曲ばかりを歌い上げたカバーアルバムだ。タイトルに織り込んだ〈ソウルサーチン〉には自分さがしという意味もある。一昨年の暮れから準備に取りかかったこの作品は、当初は昨年のうちにリリース予定だったが、制作期間中に愛犬を亡くしたシマヅが深い悲嘆(グリーフ)に暮れ、レコーディングはしばらく延期する。彼女の悲しみに寄り添うことはできないかと、ぼくはペットロスに向きあう曲を書き下ろして贈った。気に入ったシマヅが急遽それを録音することになったはいいが、感情移入が止まらぬ彼女はスタジオでも心を震わせて泣きつづけ、レコーディングは中断をくり返す。つまりそこにはソウルがあふれていた。「いつでもふたり」と名づけたその曲は、アルバムの最後にボーナストラックとして収めた。

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