『太陽(ティダ)の運命』オスプレイ、教科書問題、辺野古基地 大田昌秀を追い落とした保守政治家・翁長雄志の「原点回帰」

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日本人と日本政治の病理的な核心をついている

 メガホンを取ったのは佐古忠彦監督。「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」(17年)、「生きろ 島田叡-戦中最後の沖縄県知事」(21年)など沖縄関係の問題作を世に放っている。佐古はこう記している。

〈次回作の構想についての話になったとき、私はこう言った。

 “沖縄の民意を示す「沖縄県知事」が国との対応に苦悩する姿を描くことで日本の問題を浮き彫りにできないか-”〉

 まさに本作は沖縄だけでなく、戦後も沖縄に困苦を強いてきた日本人と日本政治の病理的な核心をついている。大田が橋本龍太郎首相(当時)と17回も会談しながら、期待を裏切られたという現実がそれを物語っている。テレビコメンテーターとして活躍した外交官出身で総理大臣補佐官だった岡本行夫の役回りには愕然とさせられた。

 また、翁長が政策を転換したきっかけが沖縄戦での「集団自決」をめぐる安倍政権下の教科書検定にあったことや、翁長がオスプレイ反対のデモに参加した際に遭遇した右翼系のヘイトスピーチも興味深い。日章旗と旭日旗が揺れ、「左翼朝鮮人に罰があたりますように」のプラカードを大きく掲げた勢力の姿にゾッとさせられる。「中国のスパイ」との暴言も浴びたという。

 本作のプレス資料には沖縄国際大学の前泊博盛教授が「沖縄(日本政治のカナリア)からの警告」という一文を寄せている。一部を抜粋・要約する。

①G.H.Kerrは琉球に関する国内外の政治・歴史書を読み解く中で「日本の政府はあらゆる方法をもって琉球を利用するが、琉球の人々のために犠牲をはらうことを好まない」と結論づけた。

②極東軍総司令官のダグラス・マッカーサーは沖縄について「この諸島の住民は日本人とは民族的に同一ではなく、日本の経済福祉に貢献せず、しかも日本人はこの諸島の所有を認められることを期待していない」と言い切っている。

昭和天皇はマッカーサー側近のシーボルト外交局長に送った「沖縄メッセージ」の中で「アメリカが日本に主権を残し租借する形式で、25年ないし50年、あるいはそれ以上、沖縄を支配することは、アメリカの利益になるのみならず日本の利益にもなる」と伝えたとされている。

 ③について前泊教授はこう補足説明している。

〈この機密文書『天皇メッセージ』が、研究者によって公開された時、沖縄県民には大きな衝撃が走った。『天皇の赤子』として日本本土防衛のための『捨て石』とされながらも天皇のために沖縄戦を戦い、県民の4人に1人が犠牲になった沖縄である。敗戦後も米軍占領下で辛酸を舐め続ける沖縄住民を、昭和天皇自ら沖縄を米国へ提供すると申し出たのである〉

 本作を見て、これらの歴史的事実を記憶しておきたいと思った。同時に翁長の思想的方向転換の経緯を知り、沖縄県知事の苦悩の深さを改めて実感した。「太陽の運命」というタイトルを「太陽の皮肉な宿命」とも受け止めてしまうのだ。

(文=森田健司)

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