最新回の朝ドラ「あんぱん」ウラの見所~ここがヘンだよ、戦争パート。のぶが夫に駆け寄らないのはなぜだ?
第12週「逆転しない正義」#60
【朝ドラのツボ!】
次郎(中島歩)からの便りに顔を輝かせるのぶ(今田美桜)だったが、それは海軍病院からだった。のぶが不安な気持ちで病室に入ると、笑顔でベッドに座る次郎の姿が。次郎は質問するばかりで、自分のことは話そうとしなかった。
戦況は一層厳しくなり、昭和20年7月4日、高知の町に空襲警報が鳴り響く。行き交う人々の中に飛び出したのぶは、遠くから子どもの泣き声が聞こえると、皆が逃げていく方向とは逆方向へと走り出し……。
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【本日のツボ】
ここがヘンだよ、戦争パート
※※以下、ネタバレあります※※
たしか、男たちが兵隊にとられ、郵便配達は女たちがやっているとのことでした。蘭子(河合優実)がそう言っていましたよね。実際、配達中と思われる蘭子とのぶが道で遭遇する場面も何度かありましたから。
それが、なんということでしょう。のぶのところに次郎からの便りを届けたのは、男の配達員でした。「ゆうびんで~す」という声に思わず画面を二度見してしまいました。
疑問に思ったことがもうひとつ。
次郎の病院に駆け付けたのぶでしたが、なぜか次郎のもとへ駆け寄るわけでもなく、終始、ソーシャルディスタンスを保っていました。久々に会った夫が病床にあるというのに、普通であれば、まず、そばに近づいて手のひとつも握るのではないでしょうか。
あれでは「肺浸潤」とわかっていて、「肺病? うつったらいやだな」と、あえて距離をとっていたようにも見えてしまいます。
その後、実家に戻り、次郎の様子を伝えるのぶ。「泊まっていかんがかか?」と訊かれ、「急いでいなんと、授業の準備があるき」と高知の自宅に戻ると言います。
次郎の入院している海軍病院がどこなのかは不明ですが、だったらわざわざ御免与に寄らなくてもよいのでは、と。そもそも、病院で次郎に「みんな勤労奉仕で疲れてしもうて、授業はあまりできんがですけど」と言っていたのに、「授業の準備があるから」とわざわざ最終の汽車で帰るのもおかしな話です。
そこから何日経ったのかも不明ですが、昭和20年7月4日の高知大空襲の話に。爆撃機から焼夷弾が落とされ、市内は火の海に。
この空襲に遭うためにのぶは高知に帰っていったのでは、というのは穿った見方でしょうか。実家に泊まっていれば、空襲に遭わずに済んだのに。
戦争描写があっさりしていた気が(個人の感想です)
高知が空襲に遭ったことを知った羽多子(江口のりこ)と蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)はのぶの安否が心配で駆け付けますは、そこは焼け野原。でも、わりとすんなり再会しました。親子、姉妹の絆は強いです。スマホなどなくてもすぐに会えるのですから。
空襲のさなか、のぶが「たっすいが~はいかん」と叱り飛ばして一緒に逃げた男の子のお母さんもすぐに現われました。それも、もしかしたら死んでいたかもしれないような極限状況だとは思えないような、たとえるなら、デパートでちょっと目を離した隙に迷子になった息子をみつけたくらいのテンションだったような……。
これまで、たくさんの戦争映画やドキュメンタリーを見てきましたが、あまりにもあっさりし過ぎていて、戦争の悲惨さがあまり伝わってこなかった気がします(個人の意見です)。
そして、おなじみの玉音放送。戦争はどうやら終わったみたいです。ラジオを聴く朝田家のなかにのぶの姿はなく、なぜか焼け野原にひとり立つのぶの姿がありました。
普通に考えると、あのあと羽多子たちと一緒に御免与に帰ったものと思うのですが、家もないのにそのまま高知で、焼け野原を見続けていたのでしょうか、1ヶ月以上も。
戦争パート。なにやら綻びがあちこち見えて、振り返れば、乾パンと国防婦人会と井伏鱒二厄除け詩集だけが印象に残った次第。昭和は遠くなりにけり――。
(桧山珠美/TVコラムニスト)