「カラー化写真で見る沖縄」ホリーニョ編
「カラー化写真で見る沖縄」ホリーニョ編
今年も6月23日の沖縄慰霊の日を迎えようとしている。国内で唯一地上戦が行われ多くの犠牲者が出た沖縄で組織的な戦闘が終わった日だ。
あれから80年が過ぎ、戦後生まれにとって戦争は、どこか遠い歴史の出来事になりつつある。
しかし、80年前の沖縄では多くの日本人が現在のガザやウクライナの人々と同じように廃虚となったわが村わが町を逃げ場を求めてさまよっていたのだ。
本書は、当時の諸相を伝える白黒写真をAIによってカラー化した写真集。
カラー化することによって、記録の1ページにしか思えなかった風景が読者の日常につながり、迫ってくる。
1945年6月に首里の南側戦線で撮影された表紙の写真は、幼い子ども2人を背負って避難する母親。
参考のために本書内に添えられた元の白黒写真は、劣化で女性の周囲の映像もぼやけ、ただの古写真になってしまっている。
その写真がカラー化されると、青い空や白い雲、周囲の植物の緑、さらに親子の着ている洋服が本来の色を取り戻し、肌には生気が蘇り、下唇をかんだ日焼けした女性の顔や、カメラを見つめる子どもたちの表情などが見る者に多くのものを訴えてくる。
親子の詳細は記されていないのだが、80年前にこの3人が沖縄に存在していたことが実感され、3人のその後が急に気になってくる。
ページを進めると、米軍によって収容所に移送させられるため頭に大きな荷物を載せて歩く女性や子どもたちをはじめ、米軍に投降する住人たちや、大勢の米兵を乗せて移動するLVT(水陸両用車)の列のそばをどこに向かうのだろうか、自身もまた幼いのにさらに小さな弟か妹を背負って歩くおかっぱ頭の少女、米海兵隊員が走り抜ける道端で頭を抱え込んで座り込んだ老人……。いったい彼らに何が起きたかは説明がないのでわからないが、それぞれの写真は説明以上に多くのものを語りかけてくる。
中には、日本兵捕虜収容所の病院で笑顔でカメラに収まる日本軍の看護師や地元の女性たちの写真などもあるが、その笑顔は、これらの写真はすべて米軍が記録用に撮影したものだからだという。
対照的に、米軍に捕まり海岸の小屋に集められた住人たちの写真のように、隠しようのない不安でいっぱいの顔が並んだリアルな写真もある。
ほかにも、焼け野原となった那覇市内の様子や、捕まる前に親によって喉を切られ負傷した子どもたちなど、前半部に収録された戦前の沖縄の暮らしぶりを伝える写真との落差に愕然となる。
後半には戦後の復興を伝える写真も収録。歴史を学ぼうともせず、思い込みで不穏な発言をするような国会議員によって、いつまた誤った道へと国に導かれるかも分からない今、あの戦争のことをもう一度身近に感じ、考えるための機会を与えてくれるお薦め本。
(ボーダーインク 2200円)