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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

BOOK OF DAYS(大阪・本町)インバウンドたちがジャケ買いしていく新刊アート専門店

公開日: 更新日:

 ビジネス街のオアシスのような小さな公園があり、そこから見えた。ビルの2階に、ペンダントライトが本棚を照らす一室が。あ、あそこだ。階段を上がってドアを開けると、外から見えた以上にステキな空間だった。

 草原を走る列車の窓から柔らかな2人の手が出ているモノクローム写真、海の中のイルカを真後ろから捉えた写真などに次々と目を奪われた。前者は「BYWAYS」(Roger A Deakins)、後者は「これが君の声 青の歌」(岡田裕介)の表紙写真だが、単体で鑑賞できてしまうモノが多数平積みだから、まるでギャラリーだ。

「今ね、お客さんの3分の2が外国人なんですよ」と、店主の帰山大輔さん(48)が言う。

 すごい。彼らは、ここをどうやって知るのでしょう?

「分かりません(笑)。日本人と明らかに買い方が違うのは、“アート本コレクター”が多いこと。スニーカーを集めるのと同じ感覚かも」

 インバウンドたちが「これぞ日本的な本」をジャケ買いしていくそう。例えば、と帰山さんが手に取ったのが、「MERIYASU's DOLL HOUSE メリヤスの人形の家」。ぬいぐるみの写真集で、懐かしいような未来ワールドのような。

次々と目を奪われる写真など店内はまるでギャラリー

 もう一冊がジン(自主出版物)の「収集百貨」で、こちらも面白い。駅弁容器や包み紙、メンコなどがどっさりの写真が続いていた。

 帰山さんは、渋谷の「タワーブックス」勤めを経て、郷里の新潟で2005年に独立。12年に大阪に移転した。「知る人ぞ知る店で居続けたい。でも、ほかに大阪でアート本を置いていた書店2軒が閉店してしまって。同じ本を3軒で見られたのが、うち1軒で1回だけ見ると『ただのよく分からない本』になっちゃいますよね」と苦笑いした。新刊のアート本専門の、おそらく西日本唯一の店。オンライン販売を含め、これまで1万3000タイトルを売ってきた。目下の在庫は3800種類。

 この日、私は思い切った(金額的に)。「アメリカンドリームの中の過酷な現実も垣間見える」と聞いて、1958年に初版が出た写真集「THE AMERICANS」(ROBERT FRANK著 8250円)を買った。

◆大阪市西区阿波座1-10-2 202号/地下鉄各線本町駅23番出口から徒歩2分/℡06.6599.8210/平日午前11時~午後5時、土曜正午~午後5時、水曜・日曜休

ウチで売れている本

「NEON NEON」ニホンノネオン研究会編著 中村治撮影

「昔、看板屋さんの隣に住んでいて、『ネオンの本ない?』と聞かれ、探して、なかったんですが、今なら2021年に発行されたこの本があります。東京と東京周辺の街を歩き、ネオンのある風景を撮影するとともに、ネオンに関わる仕事をする人たちにインタビューした、計608ページに及ぶ一冊です。ネオンを規制している国が多いためでしょうか。とりわけ外国人のお客さんによく売れています」

(LITTLE MAN BOOKS刊 2970円)

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