「フェミニスト・ファイブ」レタ・ホング・フィンチャー著 宮﨑真紀訳 阿古智子解説
「フェミニスト・ファイブ」レタ・ホング・フィンチャー著 宮﨑真紀訳 阿古智子解説
「女性は天の半分を支える」。毛沢東が言ったとされるこのスローガン、中国共産党の男女平等の表明のように思えるが、現在、党の中枢を担う政治局員24人のうち女性はゼロ。それどころか、中国共産党は女性の権利を主張するフェミニストたちに対して激しい弾圧を加えていることを本書は明らかにしている。
2015年3月8日の国際女性デーを目前に、北京ほか2都市で5人のフェミニスト活動家が一斉に逮捕された。地下鉄やバスでの痴漢行為に反対するステッカーを配ろうとしたというのがその理由だ。後に〈女権五姉妹=フェミニスト・ファイブ〉と称される5人の逮捕はSNSを通じて全世界に広まり、各地で5人を支持するデモが行われ、中国政府を非難するツイートが拡散。5人は37日間の勾留の後、解放されたが、いまだに監視下に置かれている。
著者は5人へのインタビューを行い、5人それぞれがどのような経緯でフェミニズムに出合い、逮捕までどういう活動をしてきたのか、そして勾留中の理不尽な扱いとフェミニズムを危険視する政府(党)の思想統制の模様をていねいに聞き出している。
この事件をきっかけに中国では、多くの女性が人権意識に目覚め、政府の厳しい検閲、妨害をかいくぐって、性加害、性差別、DV、LGBTQなどさまざまな問題をめぐってSNS上で議論が展開されるようになった。著者はそれらの活動に携わる人にもインタビューを試み、併せて中国の家父長制的権威主義の歴史をたどるなど、広範な観点から中国におけるフェミニズム運動の実態を描いていく。
著者は言う。中国だけではなく、ロシア、ハンガリー、トルコといった国々でミソジニーにまみれた独裁者たちが女性の権利を剥奪しようと躍起になっている。その圧力を止める最適な方法は、フェミニスト活動を支持し、女性の権利を勝ち取ることだ、と。〈狸〉
(左右社 3080円)