「時代に挑んだ男」加納典明(53)クリエーターは見る人、読む人に「精神的刀傷」を負わせるべきだよね
精神の印刷屋でもあるまいし、学校で教えるのは無理だよ
加納「ショーン・ペンが良かったんだよね。彼の演技。それからイーストウッドがやりたいことが、俺には伝わってきた。ただの活劇ではなくて、社会性を持ってたというかね」
増田「訴えてくるものがあったと」
加納「そうそう」
増田「他にいい映画はありますか」
加納「なかなかないね。大体その、お里が知れるって言うかね。感激したいとかそんなのないんだけど、要するに何も感じないんだよ。見えちゃうというかな。役者の演技がすごいとかであっても、うん、よくやるけどなというぐらいしか感じないというか。でも『ミスティック・リバー』はよかった。ショーン・ペンとイーストウッドが真剣勝負の感性で撮ったんだろうね」
増田「東京芸大には映画の学科もありますけども、ああいったところでは何を教えてるんですかね」
加納「大学で教えられるものっていうのは限られるよね」
増田「そうですね。機械科とか土木科とかの技術屋さんならある程度は基礎は教えられると思うんです。でも映画のようなクリエイティブなことは無理ですね」
加納「精神の印刷屋でもあるまいし、そういうのを学校で教えるのは無理だよ」
増田「無理ですね」
加納「俺は、例えば小説家だったら、書くことが危険をもたらすべきだと思うわけ。読者個人個人に精神の危険を、そわそわさせるってことじゃないんだけど、要するに『どっか斬られた』というか、『これは捨てられない』『忘れられない』というか、そういう何かがないと。植えつけるといえばいいのかな」
増田「傷痕のようなものですか」
加納「そう、傷痕。精神的刀傷を負わせるべきだよね」
増田「いや、今はなんでも『共感できない』とか『共感したい』とか、そういう時代ですから。表現世界、クリエーティブな世界がその小さな目線で破壊されてますから。『私は共感できない』とか言う人は間違いなくクリエーティビティーのない人ですけどね」
加納「たしかに共感派からしたら、俺の話なんて『それ何ですか』の話だろうね。『それ何の話ですか』って食いつかれるだろうけども、やり合わせてくれるならいつでもやるけど」
増田「『朝まで生テレビ』みたいな」
加納「そう。最後まで議論させてくれるならやるよ。長くなるだろうけどね。負ける気はしない」
(第54回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。