「時代に挑んだ男」加納典明(26)女性との関係は70歳過ぎまで現役、「でも、常に性に対する矛盾があった」
父・豊明さんは名古屋で右に出る者がいない図案家
加納「うん、ずっと横で見てた。息もつかずに見てたって感じで。日頃反抗してても、夜になるとそういうの見てると、やっぱり親父はすげえわって思うんだよな」
増田「反抗してたってことは、典明さんが、中学、高校時代になっても見てたんですか?」
加納「見てた。あそこまで描ける人は名古屋にそうはいなかったと思う。ルーペみたいなものをしながらね。面相の一番細い筆、かなり細い線。それを正確に書いていく」
増田「インクですか」
加納「絵の具だね。今あんなことできる人いないだろうけど、今はメカニックにできるけど、当時はすべて手作業。名古屋で親父の右に出る人いなかったと思う。それくらい凄かった。それを夜、横に座ってじっと見てね。この人、凄いって」
増田「子供って、そうやって親の仕事ぶりを見て成長していくんですよね」
加納「そうだね。結局、俺は写真家として親父を背負ってんだろうね。どっかで背中に感じてるんだよな。その親父がいろいろ背中で言うわけよ。オレの中で想念が流転するから」
増田「声が聞こえてくるんですか?」
加納「うん。写真の仕事をしながら『親父だったらどう見るだろう』『どう言うだろう』って。親父だったら、ここでどういう筆を走らせるだろうっていうのは、やっぱりあるよ。今でもある」
増田「83歳になって親父の声を聞くというのはすごいですね、その影響力というか」
加納「そうだね。ありがたいよね。そういう親父に出会えたのは」
(第27回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。