「時代に挑んだ男」加納典明(26)女性との関係は70歳過ぎまで現役、「でも、常に性に対する矛盾があった」
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
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増田「70歳すぎくらいまではセックスはしていたと」
加納「うん。そう。してた」
増田「それまでずっと性欲と自分の矛盾を?」
加納「そうだね。相手もいろいろ変わるけども、なんつうんだろう、快楽に対しての1つの軽蔑とは言わないけど、人間というものの1つの本質がそこにあるわけだよね。動物とは違うわけだよ。動物はもちろん快楽を追っかけるんだけど、快楽だけじゃないよね。種の保存だよね。人間がそこで、快楽だけでいろいろやることに対する疑義というか、そういうのはずっとあってね」
増田「読者がずっと見てきた典明さんのイメージと真逆ですよね」
加納「うん。だから、それは、自分でも矛盾はあった」
増田「これが初めて活字になると、みんなびっくりしますよ」
加納「うん。でも『嘘つけコノヤロー』って言われるかもしれないけどね(笑)」
増田「いや、そんなことはないです。でもあそこまで深くエロスとか性について考えてた人が、そういう矛盾も抱えながら思索していたと知ると、読者も見方が変わるんじゃないですか」
加納「そうだね。俺は『平凡パンチ』とか『テンメイ』なんかでやってたことは、あれは1つの社会に対する反抗というか、俺なりの攻撃だったんだよね。社会に物申すっていう。『違うだろう』っていう」
増田「そういう反逆精神というのはお父さまや、お母さまから?」
加納「うん。おそらくね」
増田「お父さまはどんなお仕事の方だったんですか」
加納「図案家*。今でいうグラフィックデザイナー。薬の箱の裏に効能とか材料とか書いてあるじゃない。今はもう人の手でなんか書かないけど、ああいうのなんかを書いてた。超小さい字を、面相の細い筆で書いていく。あれはやっぱりすごかったな」
※図案家(ずあんか):江戸時代、戦前、戦後を通じて在野の日本の絵の世界を支えた職業。小説の挿絵を描く者なども含まれ、英語にすればグラフィックデザイナーだが、日本語ではもう少し広い意味を持つ。たとえば竹久夢二なども図案家と呼ばれることがある。
増田「典明さんは子供の頃それを見て育ったと」