出口治明氏 60歳を不安に思うのは定年に毒されているから
立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口治明氏
人生100年時代といわれて久しいが、コロナ禍も加わり、先行き不透明さに不安を覚えている人も多いだろう。そんな中、発売約2カ月で20万部を突破、ベストセラーになっているのが「還暦からの底力」(講談社)だ。著者は自身も還暦でネット生命保険会社を創業、古希で畑違いの大学の学長に就任した。その行動力と発想は何なのか――。「年齢に意味はない」が持論だという。パワフルに行動するための秘訣を聞いた。
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――著書がベストセラーです。
たまたまステイホームで本を読む時間がたくさんあったからではないでしょうか(笑い)。
――多くの人が60歳の定年後の生活がイメージできず、不安を感じています。
60歳がどういう年齢かと考えてみると、ちょうど人生の真ん中なんですね。今、日本の大学進学率は53%前後。平均すれば20歳で社会に出ますから、人生100年とすれば、80年あります。ですから半分の40年が過ぎた60歳は、マラソンで言えばちょうど折り返し点なんですよ。不安に思うのは、定年という歪んだ制度があるからで、その考えに毒されているからですね。ちなみに定年という英語はありません。実際、諸外国を見てもほとんどの国に定年はないのです。
――還暦だから仕事を辞めるという考え方は違うと?
根本から間違っています。人間は社会的動物なので、働くのをやめたら寝たきりの生活まっしぐらですよ。だから楽しい人生を送ろうと思ったら、健康でいることが一番。そしてその秘訣は働くことなんです。働くことは規則正しい生活に直結し、毎日1万歩くらいは歩きます。いろいろな人と会いもしますから、良いことずくめ。実際、100人中100人の医者が心身の健康のためには働くのが一番いいと言っているんですよ。ただ、無理に働けと言っているわけではありません。働きたくない人は60歳に限らず、いつやめてもいい。でも普通の人は楽しい人生を送ろうと思ったら、働くのが一番ですよ。
■運をつかむ鍵は「適応」にある
――働き続けるとなると、新しいものを受け入れるなど柔軟な思考が必要になりそうです。
それは当たり前で、社会の変化に合わせる以外、人間は生きていけないんです。ダーウィンが言っているように、賢いものや強いものが生き残るんじゃない、動物にできることは適応だけだと。これはアインシュタインの相対性理論と並ぶ普遍の真理。変われないと思っているのはただの錯覚で、高齢者だってスマホも使うしSuicaなどICカードも使っている。ちゃんとキャッチアップしてるじゃないですか。社会の変化についていくために勉強するのは面倒と感じるかもしれませんが、スマホだって学ばないと使えませんよね。なんでも勉強すれば、楽しめるものですよ。