テレワーク推奨から1年 見習いたい優良企業とその取り組み
政府が掲げた「出勤者数7割削減」の目標達成は容易ではない。日本生産性本部の調査では1月のテレワーク実施率は22%。見かけの感染者が減って、満員電車も戻りつつある。テレワークが進んでいる企業はどうしているのか?
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テレワークが進まない理由は挙げればきりがない。社内システムのアクセス環境の悪さ、社員のコミュニケーション不足……簡単に言えば自宅で働くことのメリットが少ない。そんな中、課題解決に向け知恵を出し合っている企業もある。テレワーク推奨から1年も経っているのに何も対策を講じない会社は、大いに参考になるだろう。
一般社団法人「at Will Work」が主催する「ワークストーリーアワード」。昨年12月の表彰では、コロナ禍を反映してテレワークを推進する企業が多くの部門賞を獲得した。
従来のテレワークといえば、自宅で黙々と仕事をしているイメージだったが、自宅で仕事する方がむしろ楽しく、便利でなくてはいけない。
「2019年の表彰では女性参画などダイバーシティーに取り組む企業が多数でしたが、2020年はコロナ禍の働き方と自治体の取り組みが目立ちました。コロナが終息すれば元の職場に戻るという考え方もありますが、先進的な企業はそうは思っていない。コロナ後も引き続きテレワークなど多様性のある働き方を認めなければ、社員に“選ばれない”という危機感を持っています」(at Will Work担当者)
受賞企業はどんな工夫や対策をしているのか?職場にいる以上の効率や便利さを考えている。
■在宅勤務中に聞く「おもいやりラジオ」
奈良県の住宅メーカー「楓工務店」は社員の平均年齢が31歳という若い会社。うち女性社員は約半分で、コロナ以前からテレワークを導入していた。それどころか、夫(妻)の転勤に帯同する社員の「テレワーク転勤」も認めている。
「ところが、テレワークを長く続けていると、社員に不安が出てきます。そんなある日、富山県へテレワーク転勤している女性社員の発案で、社員向けラジオの生配信を始めました。今は、遠くにいながら社員同士のコミュニケーションツールとなっています」(楓工務店・広報担当者)
テレワーク中に困ったことがあれば、マニュアルを改善するなどすぐに反映させるという。
■雑談もできる顔の見える仮想オフィス
テレワークはさびしいもの。そこで「雑談」を奨励しているのが、ソフトウエア開発「ソニックガーデン」だ。
同社は2016年にオフィス出社を撤廃し、全社員がテレワーク中。当然ながら社員同士のコミュニケーションが希薄になっていった。そこで社内広報チームをつくり、社員のコミュニケーションをはかっている。社内用YouTubeの生配信、家族も参加する社員旅行、極め付きは自社で開発した仮想オフィス「Remotty」(月額2万円~)の活用。実際のオフィスにいるように互いの様子を画面越しに見ながら働き、雑談や相談はいつでも行っていい。
アクティビティー研修で一体感
星野リゾートグループで15年連続増収増益を記録中のクラフトビール会社「ヤッホーブルーイング」。明るい社風で知られるが、社員研修などで連帯感を高めている。
「楽天大学の『TBP』という研修プログラムに参加し、アクティビティーを通じてチームビルディング(組織づくり)を学んでいます。残念ながら現在はオンライン研修ですので、その代わりに『シャッフル雑談朝礼』をリモートで行っています。ルールは“仕事の話は一切しない”こと。また、知らない社員同士のテレビ会議『よっファミ(リー)』、さらに『テレ筋』といってビデオ会議の際に好感を持たれるうなずき方や身ぶり手ぶりなどのお作法を社内配信しています」(ヤッホーブルーイング)
同社のモットーは「真面目にバカをやる」。新入社員の離職率も低くなる。
■仕事のない社員を他社へレンタル
テレワークの導入によって地方移住を考える人も増えてきた。総務省も「地域おこし協力隊」(年収上限440万円)を募っているが、本業を持つ者にとっては完全移住のハードルは高い。
そこで長野県の「塩尻市」は、リモート副業で優秀な外部人材を募っている。
一方、遊び・体験の予約サイトを運営する「アソビュー」は、コロナ禍で売り上げが前年比95%減の大ピンチ。それでも社員を解雇したくないと、「在籍出向」を始めた。同社の山野智久社長が発起人となって「災害時雇用維持シェアリングネット」を発足。サッカーのレンタル移籍のような制度で、社員を出向させたい企業23社に対し、受け入れたい企業が85社集まっている。期間は1年間だが、レンタル移籍先が気に入れば「転籍OK」というルールもつくっている。
シニア社員全員にスマホを支給
賃貸住宅の管理を行う「ビレッジハウス・マネジメント」は平均年齢66歳。定年後に働くシニア社員が550人在籍している。
清掃など巡回の管理人の業務は本部との連絡が重要だが、これまで電話や紙、対面での報告が主だった。
そこで業務効率化のために全員にスマホを支給。渋る社員には「お孫さんともLINEできたり、ビデオ通話ができますよ」と誘って操作を覚えてもらい、今では対面だった会議もオンラインに切り替えている。
■究極のモチベーションの上げ方
最後は、働きがいを高める産業機械部品「トモエシステム」の取り組みだ。
男子育休100%のほか、2016年に「今後3年間で全社員の賃金を20%アップさせる」と宣言し、見事に達成している。
「昨年は厳しい業績となりましたが、決算賞与(臨時賞与)支給も行いました。それだけではありませんが、社員のモチベーションのひとつになっていると思います」(トモエシステム人事総務部)
在宅勤務は会社への帰属意識を薄めるので、社員が喜ぶテレワークをやらないと、コロナが終息した頃は退職者が相次いでいる可能性がある。
(取材・文=加藤広栄/日刊ゲンダイ)