雨宮処凛さんに聞いた「コロナ禍と貧困」の現状、向き合おうとしない政治への怒り

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雨宮処凛(作家)

 コロナ禍によって、日本が抱えるさまざまな問題が浮き彫りになった。そのひとつが自殺者だ。警察庁が発表した今年7月の全国の自殺者数は前月から減ったものの、6月まで12カ月連続で前年を上回った。2020年の女性の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は10.9で前年比1.5ポイント増。コロナの影響で仕事や住まいを失った生活困窮者を支援しながら、その模様を著書「コロナ禍、貧困の記録」にまとめた作家に現状を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――感染が拡大してから1年半超が経過しました。

「家がない」「1週間、水しか飲んでいない」「車上生活をしている」「自殺を考えている」など、今年に入ってから相談内容がかなり深刻になっています。20代が増えるなど、若年化し、女性も多い。これまでいなかった層です。コロナで格差がますます広がり、社会がそういう人たちを守る余力を失ったと感じます。

 ――国は生活困窮者の人数を把握しているのでしょうか。

 単身世帯で貯蓄ゼロが3割以上、平均年収175万円の非正規雇用者が2000万人以上います。計算すれば生活保護予備軍がどれくらい存在するか、すでに所持金が尽きている人がどれくらいいるか、はじき出せるはず。支援で一番困るのは携帯を止められている人が多いことですが、これも携帯電話事業者に聞けば数字を割り出せます。

 ――日本にはコロナに対応する救済制度が乏しい。

 住居確保給付金を使う人が何十倍にも増えましたが、この制度はもともと条件が厳しすぎた。コロナ禍でいくらか緩和されましたが、それでも給付額は低い上に収入要件もあり、使い勝手が悪い。もっと手軽に使える家賃補助制度を新しく作った方が効率的だし、救われる人が増えます。

■「非正規」「女性」をコロナ禍が直撃

 ――コロナで最も打撃を受けたのは飲食店や観光業で働く人たちです。

 飲食・宿泊で働く人の64%が女性で、大半が非正規雇用です。日本のサービス業は非正規雇用が支えていますが、低賃金で不安定、補償も満足にありません。そうした人たちが大打撃を受け、中には職場の寮を追い出されてホームレスになった人も多くいます。

 ――コロナでさまざまな問題が顕在化したとはいえ、この国は以前から満身創痍でした。

 非正規雇用だと生活は不安定で結婚や出産にも消極的になる人が多く、「何かあったら大変なことになる」とずっと言ってきました。例えば災害で家を失った場合、避難所や仮設住宅に入れますが、コロナで仕事と住まいを失ったら路上生活を余儀なくされ、自殺しかないところまで追い詰められる人もいます。

 ――女性の自殺者が急増しています。

 コロナ禍から1年半経つのに、何も対策がなされていない。本当に何が何でも命を救おうという姿勢が全然見えてこない。支援団体と出合わなければ、自殺していたかもというケースがたくさんある。借金などで人間関係が破綻している人も多い。所持金ゼロで誰にも頼れなくて、路上に行ってしまい、もう死ぬしかないとSOSメールをしてくる人もいます。どういう状態で自殺や自殺未遂が起きているか、政治家は知らないのではないか。

 ――自殺者の増加は本来なら大問題です。

 コロナによる経済停滞が原因だと誰でも推測できます。国のトップが「コロナの困窮によって、1人も死なせません」と強いメッセージを出して欲しい。そうすれば役所の対応も変わります。今すぐできるひとつのやり方です。総理は「自助、共助、公助」と言いますが、今こそ公助をフル稼働させて人を救う時です。

 ――一方で、感染者を増加させてまで、東京五輪開催にこだわりました。

 これだけ声を上げても「おまえらの声なんか関係ねえ、祭りをやるんだ」ということ。「これだけ自殺者が増えています」「困窮者にお金を回して下さい」とお願いしているのに、無視され続けている。楽しいイベントにはどんどんお金をつぎ込むけど、自分が見たくないものには目をつむる。でも、政治って人が見たくないものにこそ必要なのであって、何のための政治なのか。

今の政治は「見たくないもの」を見ない

 ――困窮者増加の背景に非正規雇用拡大があるのは今に始まったことではありません。

 特に今の40代は国の政策の犠牲者です。就職氷河期で正社員になれず、20年間、ずっと派遣で働いてきたという人もいる。その間、最低賃金は抑えられ、労働者派遣法が改悪され、製造業派遣が解禁され、ますます不安定になった。寮付き派遣の仕事をしていると、失業と同時に住まいも失うので、次も寮付き派遣を選ばざるを得ない。負のスパイラルに入ってしまったロストジェネレーションもたくさんいます。そういう人たちがコロナで仕事を失い、ネットカフェの料金すら払えず、路上生活者になっている。国の政策に振り回され続けた層です。非正規雇用は今や全体の4割近くですが、こんな状況をつくった政府が実態を知らず、救いの手を差し伸べないのは問題です。

 ――生活保護には頼れないのですか。

 1人で役所に行くと「まだ若いから働けるだろう」と追い返されるケースもある。生活保護申請が無事できても、今度はアパートに転宅させてくれないこともあります。本来であれば保護費から転宅費という引っ越し代や敷金が出るのですが、「あなたは路上生活していましたよね」と、わずか1カ月路上にいたというだけで偏見の目で見る。アパートに入居できれば住民票も得られて仕事の幅も広がるのに、そんな嫌がらせのようなことがまかり通っています。

■ロスジェネ世代には自己責任論が染みついている

 ―――環境が整わなければ、働きたくても働けない。

 アパートに入るだけで、その人の人生は劇的に良くなります。住所がないと日雇いなどしかできず安定した仕事につけませんが、住民票があれば身分証明もできるし、マイナンバーカードを作ることができれば仕事の幅も広がり、スキルアップできる。そうして労働者として活躍してもらえば、納税にもつながる。社会全体にとっていいことなのに、国がネグレクトしている。

 ――非正規雇用というだけで社会から色眼鏡で見られる。

 そこに自己責任論が拍車をかける。コロナで仕事を失ってもコロナが悪い、国が悪いと考えず、自分がちゃんとやってこなかったからだと自分を責める。場合によってはだから死ぬしかない、自殺しかない、となる。本当はいくらでもやり直せるのに、労働力をみすみす手放し、路上に滞留させることは国にとっても大きな損失です。お金もなく、食べることにも困る人があふれれば犯罪が増え、治安だって危うくなりかねない。その方がよほどコストがかかるのです。

 ――生活困窮者はなぜ文句も言わずに耐えているのですか。

 やはり自己責任論が骨の髄まで染みついていることが大きい。これまで非正規として生きてきて職場で差別的な扱いを受け、揚げ句クビにされても、「計画性がない自分が悪い」って皆、口を揃える。「生きててすみません」ぐらいな感じで、自信をなくしている人が多い。これまでさんざん「社会のせいにするな」と言われ、社会に対して怒りを表明する発想すら奪われていると感じます。

 ――経済的な支援をすれば状況は変わるのでしょうか。

 例えば所持金が数十円になってしまうと、今晩、あるいは明日はどうしようと不安にかられ、絶望することもある。住まいがない状態で生活保護申請をした場合、都内であれば1カ月ホテルに泊まりながら、アパートを探し、移ることができます。もう死ぬしかないと言っていた人に、「こうすれば生活再建できますよ」と言うと、急に表情が明るくなる。今は本当に生活苦だけが原因で、支援を必要としている人が多い。公的制度を使って生活再建のお手伝いをすれば、すぐに社会に役立てる人たちなんです。だからこそ国はコロナ禍の生活困窮者支援に、もっと力を入れて欲しいのです。

(聞き手=滝口豊/日刊ゲンダイ)

▽雨宮処凛(あまみや・かりん) 1975年、北海道生まれ。フリーターなどを経て2000年、自身の体験をもとにした「生き地獄天国」で作家デビュー。06年から貧困問題をメインテーマとしている。「反貧困ネットワーク」世話人。

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