渡邉美樹氏「国会議員はなぜ働かないのか、憤りを感じています」

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渡邉美樹(ワタミ会長)

 出口の見えないコロナ禍に見舞われてから19カ月。経験したことがない規模の第5波が猛威を振るう。根拠を欠いた飲食店イジメはエンドレスで、今年に入ってから東京都内でマトモに商売ができた時期は皆無。要請破りが常態化する中、居酒屋大手のワタミは緊急事態宣言下の6都府県などで200店舗以上を休業している。もっとも、唯々諾々と従っているのではなく、政府の失策を批判し続けながらだ。政界を引退し、経営現場に戻ったトップに話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――「居酒屋は酒がないと売り上げが7割落ちて営業にならない」「生き地獄だ」などと、政府の新型コロナウイルス対策に手厳しいです。要請破りをどう見ていますか。

 飲食店の5割以上が時短要請にも酒類提供中止要請にも応じていないと報じられています。要請無視が当たり前という風潮になってきていることは、大きな問題だと思います。なぜ、そんな事態に陥っているのか。飲食店を経営する立場から言えば、要請に根拠がない。決算発表などで僕は繰り返し言ってきたんですが、感染状況に関するエビデンスを出してほしい。例えば、都内の新規感染者数100人のうち、20人はこういう状況で感染した。だから、こういう施設の利用はやめましょうとか。ひとりで牛丼を食べに行って、ビール1本飲んだところで感染するのか。状況を明確にした上で感染経路を示してくれれば、われわれ飲食店側としては納得しやすい。ですが、何が何でもやめろと言われれば、根拠がないだろう、となる。要請に応じない理由になってしまいますよね。

■要請破りを助長する損得判断

 ――確たる根拠が示されないまま、感染が拡大すると飲食店への協力要請というパターンが繰り返されています。

(東京都知事の)小池さんとかの言葉を借りれば、「ここが正念場」。「正念場」がこの1年以上続いているわけですよ。緊急事態宣言の発令は4回目です。「これが最後」と言われていますが、果たして期限通りに終わるのか? 解除できるとは思えない、また延長するんだろう、と思わせていることも、要請に従わない理由になっていると思いますね。ワタミはフランチャイズ(FC)を展開しているんですが、FCオーナーから「要請に応じたいけれど、もうお金が回らない」という声を直接聞いています。

 ――4回目の宣言以降、先払いが導入されましたが、協力金支給の遅さは以前からの問題です。

 事実、支給まで3カ月、4カ月も待たされています。家賃や人件費はその前に発生しますから支払いに間に合わない。要請に応じるのか、会社を潰すのか、という選択肢を迫られる。会社を潰すくらいなら要請には応じない。そういうふうに背に腹は代えられない状況に追い込んでしまっているのは非常に良くない。

 ――金額についてもさまざまな意見があります。宣言下の都内では中小企業は規模によって1店舗当たり日額4万~10万円。大企業は上限20万円です。

 個人店の中には、かえって儲かっているところもある。要請に応じて閉めた方が得、無視して開けた方が得、過料(30万円以下)を払っても開けた方が得、という損得で判断する状況になっているのも現状を生んだ大きな理由でしょう。だとしたら、どうすればいいのか。厳しい法規制をするほかないと思います。行政の最大のミスは、1年半を超えるコロナとの闘いを強制力のない要請でやってきたこと。最大の失敗だと思います。私権制限につながるとの指摘はある。それを議論するために国会は存在するんです。要請を貫き、患者も死者も増える道を選ぶのか。私権がある程度制限されても、感染を抑え込んで安心な生活を送るのか。どちらを選ぶかは国民で、国会で議論しなければならない問題です。何ら議論せず、国会を閉じ、東京五輪は開催する。これに対して、元国会議員として僕は非常に強い憤りを感じています。今こそ、国会議員が仕事をする時でしょう。

 ――専門家や知事からはロックダウンの法整備検討を求める声が上がっています。

 僕もロックダウン賛成派です。中途半端なことをするからダメなんです。これも繰り返し言っていることですが、PCR検査を徹底し、現状把握する。そうしなければ手の打ちようがない。そして、ロックダウンです。仕事で渋谷を歩いたりすると、夏休みもあって日常以上の人波ですよ。これで感染拡大が収まるわけはない。ワクチン接種完了率が全人口のおよそ5割に達している米国のCDC(疾病対策センター)は先月末、「感染者と死者は10月にピークを迎えるかもしれない」とする予測を発表しました。

コロナ禍の影響は2022年5月まで覚悟

 ――ワクチン接種率が70%にとどまり、デルタ株がアルファ株よりも60%感染しやすいとのシナリオに基づく試算ですね。

 ということは、この国で接種がどんどん進んだとしても、おそらく1月、2月あたりまで感染は収束しない。となれば、3月、4月、5月まで影響は及ぶ。コロナ禍が2年以上続く。国民の疲弊は相当大きい。今からでも遅くない。規制強化で感染を抑え込むべきです。

 ――補償についてはどうですか。

 もちろん、規制と補償はセットです。ただ、ダラダラとした補償の継続はどうなのか。僕のもうひとつの大きな心配は、借金を重ねるこの国の財政がもつのかということ。会社もそうですが、赤字を一気に出せば回復しやすい。赤字の垂れ流しは危険です。この国は最も危険な道を歩んでいると思いますね。

 ――3回の補正を編成した2020年度予算は、2割に相当する約30兆円が未消化のまま繰越金となっています。

 予算を組んでも小出し。戦力の逐次投入は典型的な負けパターンですよね。五輪開催でどれほどリスクを広げたかも検証すべきです。国民はどうしたって気が緩み、出掛けよう、となる。五輪を中止すれば、緊急事態を国民と共有する最大のメッセージになったと思いますよ。こだわった五輪をやめるのか、大損してもやめるのか、それほど厳しい状況なのか、と。政府は強力なメッセージを出しそびれた。

■協力金「申請証明」で融資を

 ――都内には運営店の約4割が集中し、4回目の宣言によって月間4億円の追加損失が生じているそうですが、要請に引き続き応じますか。

 要請は守ります。現状ではエビデンスもないし、強制力も弱いですが、飲食店が感染源の一部であるのは確かだからです。その一部の一部にもなってはいけないという社会的責任から、われわれはすべて守っています。ただ、手元資金が枯渇して家賃も払えなくなり、やむなく店を開ける事情は理解できる。僕も1店舗から始めましたから。これも繰り返し言っていることですが、協力金の支給は多少遅くてもいい。その代わり、事業者が申請した時点で支給時期のメドを記した証明書を発行してもらいたい。それと引き換えに金融機関が無条件で同額融資をすればいいのです。そうすれば、金詰まりは起きにくくなる。協力金が少額だから営業するというのは、モラルの問題。大半は要請に応じたいと考えている。実行させる要素が現金なんです。金融機関はダムの役割を果たすべきだと思います。

 ――参院議員を1期で引退して経営の現場に戻り、会長復帰から間もなくコロナ禍に見舞われました。

 会社をどう再建するか。計画を立てている矢先でした。いい時期に戻ってきたと思います。こういう時こそ、明日の手を打つことができる。耐える、乗り越える以上に大成長へのステップだと思っています。居酒屋市場はコロナ前の7割程度までしか回復せず、勝ち組と負け組に二極化していくと見ています。コロナ前と同水準の収益を上げられる業態につくり直す必要がある。22年3月までにコロナ前から手掛けている「bb.qオリーブチキンカフェ」を80店、「から揚げの天才」を200店、焼き肉業態も積極的に出店します。

 ――政治に対する歯がゆさが伝わりますが、政界復帰は?

 もう考えていません。政治というのは本当に難しい。自分の力だけではどうにもならない。僕はどこの団体の世話にもならなかったので自由に発言しましたが、結局は何もならない。何の影響もない。それがよく分かったので、経営者として頑張っていきますよ。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽渡邉美樹(わたなべ・みき)1959年、横浜市生まれ。明大商学部を卒業後、経理会社に半年間勤務。運送会社で1年働き、資本金300万円を貯めて84年、ワタミを創業。2000年、東証1部上場。13年、自民党公認で参院選(全国比例区)に初当選し、1期で引退。19年7月、ワタミに復帰し、取締役ファウンダーに就任。同年10月、代表取締役会長兼グループCEO。「学校法人郁文館夢学園」理事長なども務める。

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