津野田興一
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津野田興一都立立川高校教諭

1965年生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科史学専攻修了。現在、東京都立立川高校で世界史を教える。著書に「世界史読書案内」(岩波ジュニア新書)、「やりなおし高校世界史―考えるための入試問題8問」(ちくま新書)、「第2版 ポイントマスター世界史Bの焦点」(山川出版社)など。

まるで帝国の墓場…英ソ米3大国がはまった「アフガンの穴」

公開日: 更新日:

 写真①は1979年からアフガニスタンに約10年間侵攻した、ある国との戦いの1コマです。打ち捨てられた戦車が写っていますね。いったいどこの国がアフガニスタンに侵攻し、そしてどのような結末を迎えたのでしょうか?

■文明の十字路

 ユーラシアの中央部に位置するアフガニスタンは、古来「文明の十字路」と呼ばれてきました。高校の世界史教科書に登場するレベルで言っても、北インドに侵入したアーリア人、アレクサンドロス大王に率いられたギリシア人、大帝国を建設したクシャーン人、そして東西交易を支配したソグド人(最後の2つはイラン系民族)、また、北方から南下してきたトルコ人やモンゴル人がこの地を大帝国の一部に組み込んだりしてきました。

 この結果、現在のアフガニスタンにおける民族分布は複雑で(図②)、1つの山を越えるとそこには別の民族が住んでいる、というような状態となっています。

 民族構成は約20以上を数え、最大勢力であるアーリア系のパシュトゥーン人は人口のおよそ40%を占めています。続いてアーリア系のタジク人が25%、モンゴル系のハザラ人が10%、さらにトルコ系のウズベク人やトルクメン人などが続きます。宗教的にはほとんどがスンナ派のイスラーム教徒で、前述のハザラ人などはシーア派です。

■パシュトゥーン人

 最大勢力のパシュトゥーン人は、相互扶助の義務のあるイスラームの教義とともに、「パシュトゥーン・ワリー」と呼ばれる社会規範を持っています。そこでは、来訪者へのもてなしや、外部集団から追われた逃亡者の庇護などが重視されるのです。

 パシュトゥーン人を中心としたターリバーンが、同時多発テロ事件を起こしたウサマ=ビンラーディンをアフガニスタンにかくまったのは、「助けを求める者には手を差し伸べる」という伝統と相互扶助の考えがあったからでした。

■19世紀イギリス

 19世紀後半になると、ロシアの南下政策を恐れるイギリスが、アフガニスタンでの勢力拡大を狙います。中央アジアとアフガニスタンを巡る、ロシアとイギリスの勢力争いを「グレート=ゲーム」と呼びます。資料③の風刺画には、アフガニスタン(シール・アリー王)がイギリス(ライオン)とロシア(熊)に挟まれた様子が描かれ、英文で「“友達”から助けてくれ!」と書いてあります。大国によって翻弄されるアフガニスタンの様子を読み取ることができますね。

 2度にわたるアフガン戦争の結果、1880年にアフガニスタンはイギリスの保護国となりましたが、第1次世界大戦後に第3次アフガン戦争を仕掛け、1919年に独立を回復します。いっぽうイギリスは、世界を支配する覇権を失ってゆきました。

■20世紀ソ連

 アフガニスタンの隣国のイランで、1979年にシーア派の宗教政権が誕生するイラン革命が起こると、その波及を恐れたソ連がアフガニスタンに軍事侵攻を行います。当時のソ連書記長はブレジネフ。一般に「制限主権論」と呼ばれる論理(社会主義全体の利益のために、一国の利益が制限されるのはやむを得ない)を掲げ、アフガニスタンに戦車などの地上部隊を送りこみました。

 しかし、写真①のように、急峻な山岳地帯を擁するアフガニスタンにおいて、近代化されたソ連の戦車部隊は苦戦します。また、アメリカのCIAなどによる支援を受けた「ムジャヒディーン」と称するイスラーム教徒の義勇兵たちが、サウジアラビアやパキスタンなどからアフガニスタンに集まってソ連と戦い、とうとうソ連は1989年に撤退しました。

 この結果、ゴルバチョフのソ連は1991年に解体してしまいます。

■21世紀アメリカ

 2001年9月11日の同時多発テロ事件では、ニューヨークの貿易センタービルが破壊され、国防総省(ペンタゴン)にもハイジャックされた航空機が突っ込みました。

 首謀者であるアル=カーイダのウサマ=ビンラーディンは実はCIAの支援を受けたムジャヒディーンの1人として、サウジアラビアからアフガニスタンに向かい、ソ連軍と戦った人物でした。そしてアル=カーイダとビンラーディンはアフガニスタンに潜伏しているものとみられたのです。

 アメリカのブッシュ大統領はビンラーディンをかくまっているアフガニスタンのターリバーン政権を、テロ支援国家と断定してすぐさま軍隊を送ります。これが「アメリカ史上最長の戦争」とも呼ばれるアフガニスタン侵攻作戦でした。ターリバーン政権を倒すことには成功したものの、アフガニスタンの各地で軍閥勢力が台頭し、政情は不安定なままでした。

 また、ターリバーンの勢力を根絶することができず、アメリカ軍は2011年には10万人もの兵士を常駐させ、「誤爆」などによって多くの一般市民を戦闘に巻き込んで死傷させた結果、反米感情を持つ人々がターリバーンに吸収されました。

■ターリバーン

 バーミヤンの大仏を破壊するなどの過激な政策をとったり、女性に厳格すぎる教義を押しつけたりするなど、原理主義的な特徴をターリバーンが持つとはいえ、自国を攻撃したわけでもない独立国家に対して、アメリカが一方的な攻撃を仕掛けたことには大義が伴わなかったと私は考えます。また、アメリカの軍事力を背景とした新政府は、各地の軍閥=部族勢力の寄せ集めに過ぎず、部族ごとのエゴが前面に出るような政治を展開し、国民的な支持を得ることもできませんでした。

 さらに、アメリカはターリバーンを交渉相手と考えず、打倒対象としたために、戦争の終わらせ方を見つけることができなかったのです。19世紀のイギリスや、20世紀のソ連が陥った穴に、アメリカも落ちたのでした。その意味において、アフガニスタンはアメリカを撃退したと言えるでしょう。

■中村哲医師に学ぶ

 対外戦争に加えて内戦やテロが続くアフガニスタンで、医療支援に始まり、大規模な用水路を建設することで、戦闘員に民間人が吸収されることを防ごうとしたのが、中村哲という医師です(写真④)。

 私財を投じて農業支援を行い、用水路を開くことで荒れ果てた地を沃野に変えた人物でした。大変残念なことに、2019年12月4日、テロに倒れました。日本政府はペシャワール会に代表される中村医師のような活動をこそ、支援すべきではないでしょうか。

 日本においても、今後アフガニスタンへの「無関心」が強まることが予想されます。まずは、アフガニスタンの歴史を知ることから始めてみたいと思うのです。

■もっと知りたいあなたへ

「アフガニスタン 戦乱の現代史」
 渡辺光一著 岩波新書、2003年
 在庫なし

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