紙、デジタル、AI…校閲から見る新聞の未来 毎日新聞校閲センターに日刊ゲンダイが直撃(後編)

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【校閲座談会】日刊ゲンダイ×毎日新聞 校閲記者から見る未来(後編)

 校閲系のツイッターアカウントとして最大級のフォロワーを持ち、積極的に言葉に関する情報を発信して校閲系インフルエンサーと言っても過言ではない毎日新聞の校閲センター。その大きすぎる胸をお借りしようと、日刊ゲンダイ入社4年目の校閲記者が直撃取材を申し込んだ。

 その校閲座談会の後編は、毎日新聞用語幹事でもある平山さんとの対談を中心に、これからの校閲の未来について語った。

■紙の新聞があるから信頼が得られている

勝俣 日刊ゲンダイはタブロイド紙の側面もあり、いわゆる一般紙と比べると言葉の表記の許容範囲は広いですし、比較的書き手の表現を重視しているところがあります。例えば、このご時世、若い世代からすると新聞は堅苦しい、とっつきにくいだとか、新聞は斜陽だとか紙媒体は右肩下がりだとか言われていますよね。個人的には、読者層を拡大する意味で、一般紙の新聞でも新しい表現を積極的に採用したりして、若い人でも手に取りやすい紙面づくりを試みてもいいんじゃないかなと思うのですが。

平山さん 紙の新聞は、やはり年配の方が特に見てくれているので、表記が保守的なのは否めません。ただ、表記を変えたところで若い人が読んでくれるとも限らないですよね。時代は紙からデジタルにシフトしつつありますが、そのデジタルが読まれるのは、きっと新聞があるから信頼を得られているわけで、紙をなくすことはできないと考えています。だから、紙の新聞をいいかげんにはできないですね。

勝俣 紙があるからこそデジタルでの説得力が増すんですね。校閲の現場からすると、以前は紙に載るだけの情報量でしたが、世の中のデジタル基調によって情報量は飛躍的に増えました。ただ、日刊ゲンダイのデジタル専用の記事は、基本的に私たち紙の校閲記者を通さず、デジタルコンテンツ担当部署で校閲しています。やはりデジタルは速報性を重視するから仕方ないことなんですかね。

平山さん 毎日新聞ではデジタルに出るものも原則、全て校閲を通しています。2009年ごろにデジタルサイト要員を設けました。紙ではスペースの関係上、ある程度の文章量は決まっていましたが、デジタル用の記事は文章量が多いものもあっていまだに慣れないです。

書き手も校閲記者も良いものを作りたいという気持ちは一緒

勝俣 校閲としての業務量はやはり増えているんですね。その一方で、校閲をAIによって効率化できないかとか、むしろ校閲の仕事はAIに取って代わられるんじゃないかとの意見もよく聞かれますよね。AIについてはどう感じていますか。

平山さん もちろん表記の間違いを正す機能などはあるに越したことはないですけど、私自身ある程度の用字用語は条件反射的に気づくことができるので、そんなには苦労していないんです。以前、AIの開発会社の方からどんな機能をAIに求めたいかなどのヒアリングを受けたことがありました。そのとき伝えたのは、どこを参照すれば信頼性のある情報源にアクセスできるかをAIに提案してほしいということを言いました。校閲において何に時間が割かれるかといったら、やはり調べものをして事実確認をすることなんですよね。

勝俣 その機能ほしいです(笑)。日刊ゲンダイは他の媒体との差別化もあってか、すごくニッチでマニアックなところからデータを引用している記事が多いので、調べるのが本当にひと苦労なんです。

平山さん AIもそうやってうまく活用できるようになればいいですよね。

勝俣 確かに昔は手書き原稿が当たり前の時代がありましたが、今ではテキストデータになり、インターネットの登場で調べものが飛躍的に便利になったので、AIに取って代わられるということではなく共存していくのが望まれますね。

本間さん 平山さんをはじめとする先輩方が表記について、時に書き手と闘ってくれて、校閲の信頼を得てきてくれたので、若手としては今仕事がやりやすくなっています。それは書き手も校閲記者も良いものを作りたいという気持ちは一緒だという表れでもあると思います。

勝俣 そういう書き手との闘いだったり、その結果信頼を得ることは確かにAIにはできないことですよね。

平山さん AIではないのですが、以前聞いた話で、ある地方紙で校閲という作業自体を廃止したところがあり、案の定、廃止したら間違いが続出してしまい、あまりにもひどかったので校閲を復活させたそうです。

勝俣 え、そんなことがあったんですか。校閲をよく知らない人ほどたやすく人員削減の対象にしたり、他の部署の人間でも代わりが利くと考えがちなんですかね。

平山さん 校閲はものをつくり出す部署ではないので、油断すると人が減らされてしまう目にも遭いやすいですよね。

勝俣 紙はもちろんデジタルも読んでもらい、いろんな意味での信頼を勝ち取るためにも、AIにはできない闘いを校閲記者は続けていきたいですね。

  ◇  ◇  ◇

 校正・校閲という職業は近年、ドラマやドキュメンタリー、関連書籍などでにわかにスポットが当てられ、知られるようになった。その多くは出版社を舞台にしたものだが、日刊ゲンダイや毎日新聞などで日々目を光らせている“校閲記者”はそれよりも狭い業界だ。

 今回の座談会を通じてその狭い業界の「同志」の熱い思いに触れられたことは、心強く思ったのと同時にその信頼を裏切らないよう気を引き締め直す機会となった。

 タブロイド紙と一般紙、その影響力の大きさや媒体は違えど今も時間に追われながら闘い続けている同志がいる――。それを胸に今日も黙々と言葉と向き合っていく。

(取材・構成=勝俣翔多/日刊ゲンダイ)

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