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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

小池知事ブチ上げ「授業料無償化」に都立高の憂鬱…優秀学生が私立に流れ偏差値下落に拍車も

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「都の予算にそんなに余裕があるのならもっと早くやってよというところですが、とにかく小池百合子知事に大あっぱれ」と話すのは、文部科学省初等中等教育局の職員。東京都は来年度から世帯の年収910万円未満という条件を撤廃し、私立も含め都内の高校すべてで事実上、授業料を無償化することを決めた。小池都知事の決断に各方面から歓迎する声が上がっているが、一方で悲鳴も。

■日比谷高校“凋落”のトラウマ

「悪夢の再来かも」と警戒するのは、都立日比谷高校の関係者だ。「優秀な受験生が都立を敬遠し、有名私立校に逃げてしまう」と不安を隠さない。2018年に48年ぶりに東大合格者数トップ10入り。今年も東大合格者51人で10位、国公立大医学部合格者も26人と高い実績を残した。トップクラスの進学校としての位置を固めていた矢先だけに、かつてのトラウマがよみがえってきたのだ。

 戦後しばらく、大学受験戦線は日比谷高の天下だった。60年代半ばまでずっと東大合格者数トップを続け、64年には合格者192人という驚異の数字を叩き出していた。この記録は2012年に開成高が203人の合格者を出すまで、半世紀近く破られることはなかった。ところが67年に学校群制度が導入されると、日比谷高の躍進はぴたりと止まってしまう。学区内に2~4校のグループを設け、合格者をその中で振り分ける制度だ。その結果、たとえ合格しても、志望した高校に入れないケースが続出。都立高を敬遠する受験者が急増した。

 82年、学校群制度は廃止されたが、日比谷高の凋落は続き、93年には東大合格者わずか1人という事態にまで追い詰められた。その頃、同校の教員を務めていた前出の関係者は「かつての栄光を取り戻せるような雰囲気は一切なかった」と振り返る。復権を遂げるのは01~09年に都知事を務めた石原慎太郎氏が「都立高改革」を掲げ、日比谷、西、戸山、八王子東の4校を進学指導重点校に指定してから。底上げを図った成果が徐々に現れた。

「しかし、今回の全面無償化で都立がそっぽを向かれ、かつての暗黒時代に逆戻りしてしまうのではないか」と、同関係者は危機感をあらわにする。その根拠として、20年に小池都知事が私立高の無償化の対象を世帯年収760万円未満から910万円未満に広げた時のことを挙げる。都立高志望者が減少し、定員割れを起こす学校が出てきたのだ。大手学習塾のチューター(進路相談担当)は「実際、無償化の動きに呼応して都立高の偏差値が下がり始めている」と指摘する。

「都立と私立に合格した場合、私立を選ぶケースが増えているのは事実。日比谷高のような都立一番手はそれほど大きな影響は受けないと思いますが、二番手あたりがかなり下がってきている。逆にいえば、狙い目にもなっているのですが…」

 学費で躊躇しなくてよくなったぶん、受験者の選択肢が広がったのは事実。いずれにしても今後、都立高の淘汰が始まりそうだ。

(取材・文=田中幾太郎/ジャーナリスト)



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