優秀な子供ほど大人になって伸び悩むワケ…幼少期の親の期待と賞賛が足かせに?
人の期待が努力の原動力になっているケースは危ない
期待を裏切ってはいけないと思うことが、仕事が手につかなくなるほどの重圧になります。あえて他の人の期待を裏切る必要はありませんが、ただ一生懸命仕事や勉強をすればいいだけであって、他の人の期待を満たすというようなことは考えなくてもいいのです。
正確にいえば、他の人の期待を満たせないことを、仕事をしないことの理由にしているのです。アドラーの言葉を再び引きましょう。
「支持され、ほめられている間は、前に進むことができた。しかし、自分で努力する時がやってくると、勇気は衰え、退却する」
「自分で努力する時がやってくる」というのは、頑張れと励まされたり、ほめられたりされなくなるときがやってくるという意味です。
誰かに勉強について口を挟まれなくても、何をどれくらい勉強するかを決めて勉強できるようになることが自立です。しかし、親が子どもに勉強させるためにほめ続けると、ほめられないとやらない子どもになってしまいます。親は当然のように子どもをほめますが、そうすることが子どもの自立を妨げるのです。
仕事でも同じことが起きます。仕事では、他の人が見ていようがいまいが、自分の判断でしなければならないことはいくらでもあります。誰かが見ているか、ほめられるかどうか、認められるかどうかに関係なく、努力することが求められるのです。
▽岸見一郎(きしみ・いちろう) 1956年生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを歴任。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究。著書に、ベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)のほか、『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)、『幸福の哲学』(講談社)、『つながらない覚悟』(PHP研究所)、『妬まずに生きる』(祥伝社)などがある。