夢枕獏さんは「ペンか竿のどちらかをいつも握っている」と称されるほどの釣り好き
夢枕獏(作家)
長編の名手として74歳の今でも旺盛に執筆を続ける夢枕獏氏。代表作の「キマイラ」シリーズは43年にも及ぶが、そのほか多数の連載も同時に抱えている。多忙極まる作家生活のなか、「ペンか竿のどちらかをいつも握っている」と称されるほどの釣り好きな氏に、その愛を聞いた。
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父に連れられて、物心つく前から釣り場に行っていました。最初に竿を握ったのは小2くらいかなあ。昭和30年代の小田原はまだ護岸工事もされていませんでしたから、その辺のつまらない川でも面白い魚がたくさん釣れたんですね。
大人になってからも毎週のように釣りをしています。特に好きなのがアユ釣り。あの感覚はほかの魚では得られない。天気が悪かったりしてしばらく行けないようなもんなら、禁断症状が出て、仕事に手が付けられなくなってしまうんです(笑)。それでは困るので、仕事も釣りも同時にできる環境をつくってしまおうと、30年くらい前に岐阜に小さな小屋を建てました。電波も届かないので仕事に集中でき、近くにアユのよく釣れるきれいな川がある。最高の環境ですよ。
釣りと小説はよく似ています。小説はもちろんフィクションですが、釣りもほとんど想像の世界の出来事だと思うんですよ。たとえば、「あっちで魚が跳ねた。そして川の流れがこうなっているから……」と想像して、計算のもとで実際に魚が釣れたとする。でも、その考えが果たして本当に正解だったのかは、魚に聞いてみないとわからないですよね。釣りの快感はやはりあの“ガツンッ”という手応え。それはつまり“想像が手触りに変わった瞬間”なのかもしれない。SFでも時代モノでも、やはりそんなガツンと手触りのある小説が面白いですよね。


















