著者のコラム一覧
荒川隆之薬剤師

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

薬剤師は医薬品情報の「通訳」であると同時に「監視役」でもある

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「このデータは最新のエビデンスに基づいています」

 医療現場では、こうした説明を製薬会社の医薬情報担当者から聞くことが多くあります。しかしわれわれ医療従事者は、その言葉をうのみにせず、「誰が、何の目的で出した情報か?」を冷静に見極める必要があります。

 厚労省が実施している「医療用医薬品の販売情報提供活動調査事業」は、製薬企業が医師や薬剤師に対して行う情報提供活動の適正性を確認するものです。背景にあるのは、2013年に発覚した「ディオバン事件」です。ディオバン(バルサルタン)は高血圧治療薬として広く処方されていますが、企業が関与した臨床研究において、効果をよく見せるためにデータの操作や恣意的な解析が行われていたことが明らかになりました。論文は撤回され、関係者が書類送検されるという異例の展開となりました。

 この事件は、情報提供と販売促進が密接に結びついていた現実を世に知らしめました。そして、いかに情報の中立性を確保するかが問われるようになったのです。

 販売情報提供活動調査の中間報告では、依然として「誇張された有効性の提示」「副作用への不十分な説明」「未承認用法への示唆」などの問題点が報告されています。われわれ薬剤師は、医薬品情報の“通訳”としての役割を果たすと同時に“監視役”でもあります。製薬企業の出す情報をそのまま患者に伝えるだけではなく、情報の出どころやエビデンスの質まで吟味する視点が必要です。「この薬は新しいから良い」「データがあるから安心」と言われたときこそ、立ち止まって考えることが重要なのです。

 患者さんにとっての「正しい薬の選択」を支えるために、われわれ薬剤師は情報の受け手であると同時に、批判的吟味を行う専門家でもなければなりません。「売るための情報」と「治すための情報」、その違いを見極める力こそが、いま薬剤師にもっとも求められているのではないでしょうか。

【連載】クスリ社会を正しく暮らす

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