「猿猴 川に死す」森下雨村著
「猿猴 川に死す」森下雨村著
雨村は大正9年創刊の雑誌「新青年」の初代編集長。江戸川乱歩、夢野久作、横溝正史らの才能を発掘して“日本探偵小説の父”と呼ばれる。
彼は50歳で、地位も名声も捨て、高知県佐川町にUターン。太平洋戦争開戦前夜の頃だ。以降75歳で没するまで、故郷の山河で「釣りと農耕と読書」の余生を送った。
表題作は、激流にもぐってのモリ突きや網打ちなどで川を自在に走り回って“猿猴(河童)”の異名をとった男が「猿も木から落ちる」ようにあっけなく川で命を落とした話だ。
「鎌井田の瀬」は、仁淀川を代表する絶景激流ポイントで当代一の鮎釣り名手・佐藤垢石と釣りを競った思い出をつづったもの。
ほかに吉野川、四万十川、物部川、新庄川などでアユやウナギを追い、浦戸湾や須崎湾でハゼの数釣りに興じたことなど。
忘れがたき釣りの風景が、素朴端正な筆致で淡々と描かれている。
(岳洋社)


















