和歌山市「砲台の島」と紀州徳川家55万石の「シンボル」を訪ねて

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 南北に長い和歌山県の北端の海沿いに位置し、大阪府と接する和歌山市。その北西部の加太港沖に浮かぶ「友ケ島」は、明治期に完成した軍事施設の遺構が、物悲しくも不思議な魅力を放つ。紀州徳川家55万石の城下町を訪ねた。

  ◇  ◇  ◇

 本州と淡路島に挟まれた紀淡海峡は幅11キロと狭く、太平洋と大阪湾を行き交う船舶を監視できる軍事上の要衝だ。そこに防波堤のように横たわる友ケ島(地ノ島、虎島、神島、沖ノ島の4島の総称)は、幕末のペリー来航をきっかけに海上要塞への歩みを始めた。

 明治以降は6つの砲台が設置され、約600人の兵士が駐留。大阪湾に入る船舶に目を光らせた。

■天空の城ラピュタの世界観

 戦後は国防の任が解かれ、航路やキャンプ場が整備される。砲台や大砲は処分されたが、砲座跡や弾薬庫跡といった軍事施設は見学可能な状態で残った。野奈浦桟橋から30分ほど上ったところにある第3砲台跡は、煉瓦造りの廃虚と生い茂る緑のコントラストが心を揺さぶる。人気アニメ映画「天空の城ラピュタ」を連想させるスポットとしてSNSで話題になった。

 標高119.7メートルのタカノス山展望台から紀淡海峡を見下ろす景色も爽快。晴れた日は六甲の山々も見渡せるそうだ。

 加太港から野奈浦桟橋まではフェリーで約20分。料金は往復で大人2500円。気象状況によって欠航することもある。運航情報の確認は友ケ島汽船まで。

(℡)073・459・1333
 https://tomogashimakisen.com/main/

願いが叶うパワースポット

 加太港にほど近い淡嶋神社は、全国に1000社を数える淡嶋神社系の総本山だ。御祭神は医薬の神として知られる少彦名命。

 とりわけ婦人病のほか、安産、子授けから縁結びに御利益があるとされ、女性に人気のパワースポットになっている。

 もともと友ケ島の神島にあったが、仁徳天皇が加太に移して社殿を建てたとされる。数多くの人形が境内に所狭しと並んでいて、本殿右にある柱「紀文の帆柱」は願い事をしながらくぐると、願いがかなうそうだ。

(住)和歌山市加太118
(℡)073・459・0043
http://www.kada.jp/awashima/

市民パワーで再建した紀州徳川家の天守

 和歌山市の中心部に構える紀州徳川家の居城・和歌山城は、2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主人公・豊臣秀長が、兄秀吉の命で築城したものだ。もっとも秀長は大和の郡山城を居城とし、和歌山城には家老の桑山重晴を城代として置いていた。

 関ケ原の戦い後に城主となった浅野幸長が天守を建てるも安芸広島へ移封となり、1619年に家康の十男・頼宣が入城し、構えはほぼ現在の姿になったという。

 天守は1846年に落雷で焼失したが、4年後に再建されて昭和10(1935)年に国宝にも指定された。だが、昭和20年の空襲で焼失。現在の天守閣は昭和33年に鉄筋コンクリート造りで再建されたものだ。

「建設費は当時の金額で1億2000万円。その半分を市民が拠出しています」(紀州語り部の松浦光次郎さん)

 国の名勝に指定されている西之丸庭園には、和歌山市出身の松下幸之助が寄贈した茶室「紅松庵」があり、作法を気にせず抹茶と菓子を楽しめる。

(住)和歌山市一番丁3
(℡)073・422・8979
http://wakayamajo.jp/index.html

磯の旨味が凝縮した「鯛ラーメン」

 紀淡海峡の大パノラマを楽しめる休暇村紀州加太は、年間を通して稼働率100%近くの“予約が取れない宿”だ。客室は全室オーシャンビュー。海とひと続きに感じる露天風呂からの眺めは説明無用の美しさ。

 希望日に空室がなければ、日帰り入浴(1500円)とランチを楽しむ手もある。ランチの鯛ラーメンはしらす丼が付いて1700円。鯛の中骨を焼き、水に1日浸してうまみを抽出したスープは、豚骨スープを少し加えてコクを出した。スープをまとう鯛の刺し身はほんのりと甘く、ゆずのアクセントが味を締める。

 義本英也総支配人が毎朝握る120種類のおむすびをいただける朝食(2500円)も人気だ。

 宿泊は2人1室利用で1人1万5500円から。

(住)和歌山市深山483
(℡)073・459・0321
https://www.qkamura.or.jp/kada/

5匹の「めでたいでんしゃ」が定期運行

 和歌山市駅の隣、紀ノ川駅と加太駅を結ぶ南海電鉄「加太さかな線」は、“5匹”の観光列車「めでたいでんしゃ」が定期運行するユニークな路線。窓に目、車体にウロコを描き、レールの上を鯛が泳ぐように走る。

 2016年4月に運行を開始した「さち(ピンク)」が「かい(水色)」と結婚し「なな(赤)」が生まれ、21年9月には、さちの兄の「かしら(黒)」が誕生。そして24年7月、彼らの祖先にあたる「かなた(レインボー)」が登場した。

「観光列車の運行のほかにも、さまざまなイベントも開催。地元の方々と共同で活気あふれる街づくりに取り組んでいます」(南海電鉄・岸上俊さん)

 運行ダイヤはホームページで確認できる。

https://www.nankai.co.jp/lib/kada/medetai/pdf/medetaitime.pdf

「大阪・関西万博」で「和歌山百景」を体感

 和歌山県は「大阪・関西万博」の関西パビリオンに「和歌山ゾーン」を出展している。和歌山百景をテーマに「空間」「映像」「食」の3つのコンテンツを用意。紀州塗で仕上げた「トーテム」のほか、紀州桐箪笥、紀州高野組子細工などの伝統工芸を活用し、和歌山が育んできた精神文化を表現している。

 食のコンテンツでは、「四季の味 ちひろ」(和歌山市)、「角濱ごまとうふ総本舗」(高野町)など老舗和菓子などの職人が協力した6種のスイーツとドリンクのペアリングセット(6000円)を体験できる。

(問)和歌山県万博推進課
(℡)073・441・2703
https://www.wakayama-kanko.or.jp/expo2025/index.html

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