夢枕獏さんは「ペンか竿のどちらかをいつも握っている」と称されるほどの釣り好き
釣りバカが主人公の長編小説を書いてしまいました
好きが高じて、「大江戸釣客伝」という長編小説を書いてしまいました。時は元禄。あまり仕事がなくて給料だけもらっている小普請組という武士階層がたくさんいて、彼らがしたことといえば釣り。生類憐れみの令が発令されても「武士道の一環」として釣りを極めたんです。竿ひとつとっても「竹は2メートルに達するまで肥えをかぶせて育て、日にさらさない」「根元にキリで小さな穴を開け、栄養を制御することで竿のシナリを調節する」など、よく考えたものですよ。針も「夢枕流ハゼ針」みたいにみんな人物名がついているんですが、名前を調べるとみんな武士(笑)。そんな情報をまとめ、仕掛けから釣り場まですべて網羅した本邦初の釣り本「何羨録」をのこした津軽采女という実在の釣りバカが主人公です。調べると、采女の奥さんはなんと忠臣蔵事件の吉良上野介の次女で……これは小説にするしかないと思いました。
今でも、日本の釣具屋さんに行くと針も竿も無数に種類がありますよね。僕は世界各地で釣りをしてきましたが、こんなにも釣り具が多様化している国はほかにありませんよ。アマゾンでは大・中・小の3つくらいしか針の種類はなかったですし、シルクロードの西にあるタクラマカン砂漠に流れ込む川では、地元の少年はでっかい針に肉をつけていただけ(笑)。これが広い意味での世界基準です。日本の釣りバカの原点はやっぱり、元禄時代にあるんじゃないですかね。日本人は道楽好きなんですよ。
アラスカで釣り上げたキングサーモンは忘れられないなあ。50ポンド以上あって、その引きはまるで獣と格闘しているようでしたよ。もう74歳なんでそんな釣りはできないですが、年相応のおもしろい釣りがまだまだある。今年は人生最後のつもりでカナダに行く予定だったのですが、なんと航空会社のストライキで中止に。代わりの東北釣行も線状降水帯発生でほとんど釣りにならず……。難しい時代になっているなあ。 (構成=橋爪健太/日刊ゲンダイ)
▽夢枕獏(ゆめまくら・ばく) 1951年神奈川県小田原市生まれ。77年、作家デビュー。代表作に「餓狼伝」「魔獣狩り」「キマイラ」「陰陽師」シリーズなど。2017年に第65回菊池寛賞、18年に紫綬褒章を受章。「平成釣客伝」など釣りをテーマにした著作も多く、「大江戸釣客伝」では第39回泉鏡花文学賞、第5回舟橋聖一文学賞、第46回吉川英治文学賞を受賞した。
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