(7)マザーウォーターの畔で
スコットランドまで旅をしたのは2008年だから、もう17年も前のことになる。シングルモルトの蒸溜所を訪ねる取材旅行だった。
ちょっと贅沢な旅で、イギリス到着日はロンドンのホテルに泊まることができた。夜8時近くなのにまだ明るい歩道へはみ出だして身なりのいい男女がビールを楽しむパブに、私も潜り込んだ。賑やかで、お洒落で、以前、イギリスの田舎町で入ったパブとはまるで違う。ああ、これがロンドンなのか。改めて、思った。
翌日は、国内線で1時間ほど飛ぶと、アバディーン空港で、現地のスタッフと合流した。そこからは、目指すスペイサイドへ、ひたすら車を走らせた。
スペイサイドとは、スコットランドで6つに分けられるシングルモルトの産地のひとつで、その名のとおり、スペイ川の横、スペイ流域という意味だ。ウイスキーを仕込む最初の工程で使う水をマザーウォーターという。日本酒でよく何某山系の伏流水を仕込み水に用いるという説明がなされるが、スペイサイドのシングルモルトは、スペイ川に沁み込む伏流水を仕込み水としている。
麦わらを積んだ畑や牧草地の間を縫って車は走った。途中でみかけるのは羊と牛。人はあまりいない。美しい丘の光景が延々と続いた。
かつてウイスキーの運搬に使われていた鉄道の廃線跡や今は宿泊施設となっている貴族の館なども見て歩いた。豪壮な館では、廊下の向こうからふと、慇懃な笑みを浮かべた執事が現れそうな気さえした。
















