著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(7)マザーウォーターの畔で

公開日: 更新日:

 スコットランドまで旅をしたのは2008年だから、もう17年も前のことになる。シングルモルトの蒸溜所を訪ねる取材旅行だった。

 ちょっと贅沢な旅で、イギリス到着日はロンドンのホテルに泊まることができた。夜8時近くなのにまだ明るい歩道へはみ出だして身なりのいい男女がビールを楽しむパブに、私も潜り込んだ。賑やかで、お洒落で、以前、イギリスの田舎町で入ったパブとはまるで違う。ああ、これがロンドンなのか。改めて、思った。

 翌日は、国内線で1時間ほど飛ぶと、アバディーン空港で、現地のスタッフと合流した。そこからは、目指すスペイサイドへ、ひたすら車を走らせた。

 スペイサイドとは、スコットランドで6つに分けられるシングルモルトの産地のひとつで、その名のとおり、スペイ川の横、スペイ流域という意味だ。ウイスキーを仕込む最初の工程で使う水をマザーウォーターという。日本酒でよく何某山系の伏流水を仕込み水に用いるという説明がなされるが、スペイサイドのシングルモルトは、スペイ川に沁み込む伏流水を仕込み水としている。

 麦わらを積んだ畑や牧草地の間を縫って車は走った。途中でみかけるのは羊と牛。人はあまりいない。美しい丘の光景が延々と続いた。

 かつてウイスキーの運搬に使われていた鉄道の廃線跡や今は宿泊施設となっている貴族の館なども見て歩いた。豪壮な館では、廊下の向こうからふと、慇懃な笑みを浮かべた執事が現れそうな気さえした。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ