著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

(1)亡き夫が気持ちよく眠っているようで…

公開日: 更新日:

 人は視覚情報から強い影響を受ける。衝撃的な光景は、そのまま記憶に刻まれやすい。死別の場面が過度にショックなものになると、その記憶が長く尾を引きがちだ。 

 ましてや山川さんの場合、火葬場が正月休業のため、荼毘に付すまで1週間を要することになった。最初に決めたA葬儀社の「安置室」が、まるでロッカーのようで、夫はドライアイスで冷やされて、あの中で過ごさなければならないのかと涙がこぼれた。パソコンを検索しまくり、温かい雰囲気の安置室を擁するB葬儀社を見つけ、「ここに変えよう」。説明を聞きに行った。

「死亡診断書で夫の死因を知ったB葬儀社の人が、『この病気だと1週間経つと肌の色が今以上に変わる可能性が高い』と、エンバーミングを提案してくれたんです」

 エンバーミングとは、亡くなった人の血液を防腐・消毒作用のある薬液に変え、衛生的で安定した状態を保つ施術である。山川さんは新聞記事で読み、その名を知っている程度だったが、「近代的な衛生保全技術。“その人らしいお顔”に近づけ、皮膚の色も整えて、葬儀の日まで保つことができる」と説明を受け、依頼を決めた。

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