(29)滋賀の清流と山の美味
琵琶湖を巡る旅をしたことがある。関東育ちで湖というと山中湖が大きい湖と思ってきた私にとっては、想像を絶する大きさの湖だった。50代も半ばになってそれを知ったときは、我ながら、ちょっとおかしかった。
車で周囲を巡りながら、あれこれ見て回るのは、容易なことではなかった。雑誌の取材なので、水族館に行ったり、レストランや酒蔵を訪ねたり、遊覧船に乗ったりと、なかなか忙しいのだ。
湖畔の宿で、琵琶湖の魚介を中心にした食事を楽しんだ。滋賀県の郷土食である鮒寿司もいただいた。あまり強い匂いがなく、食べやすいものだったので女将さんに訊くと、鮒寿司は家ごとに伝わっている作り方が少しずつ違うので、味もそれぞれなんですよ、ということだった。ちなみにこの宿の鮒寿司は香りもやさしく、たいへんおいしかった。
琵琶湖の西側に連なる比良山系は、関西屈指の登山コースであり、名勝だ。その麓の山荘は、全国に名を轟かせる料理宿。私はなんとも幸運なことに、取材旅の中で全国の美食家が訪れるというその店に、足を踏み入れることになった。
出掛けたのは6月の初旬だった。
まず鮎が出た。琵琶湖から遡上する天然ものだ。まだ小さい鮎をじっくり炭火で焼いている。笹の葉をあしらった陶の皿に10尾ほどの小鮎が並んでいる。それを頭から齧る。ふた口で食べきってしまうほどのサイズだ。香ばしく、ウリのような香りがあり、ワタの苦みも新鮮。これほどうまい鮎を食べたのは、後にも先にも、このときだけだ。
3尾ほど、無言で続けざまに食べる。パリパリとした食感、香ばしさ、肉の味わい、香り、ワタの味わい……。これは止まらんぞ――。っとアタマに浮かんだ言葉が、これだ。
















