著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(29)滋賀の清流と山の美味

公開日: 更新日:

「萩乃露」の純米大吟醸が供された。琵琶湖畔の老舗蔵が醸す、最高の酒だ。きれいで深く、飲んだ後からすぐに次のひと口がほしくなるような酒。この冷酒で、小鮎の塩焼き10尾、すべて平らげて、もっとあればいいのに、と思うほどだった。

 驚愕したもうひとつの料理は、熊の鍋だ。地元の山で獲れるツキノワグマの鍋。シーズンは冬だが、店では冬の間に保存した貴重な肉を夏にも出していた。鍋料理として供するのだ。私が出掛けたのは6月だったが、本来はもっと早くに旬を迎えるタケノコと花山椒を取り置き、鍋に入れてくれた。

 魚の鍋では紀州の西端で食べたクエ鍋が生涯最高と思っているのだが、肉となると、比良の熊鍋がすぐに思い浮かぶ。比べるものがない。それが正直なところだ。

 最後に、鮎飯が出た。土鍋のご飯に鮎の身を崩してくれる。贅沢が過ぎるなあ。

 ご馳走ご馳走と攻めたてられるのは、生来の貧乏性ゆえ得意ではないのだが、土鍋の中で鮎がほぐされていくのを眺めたこのときは、思わず身を乗り出し、思わずにやついてしまうのが、自分でもわかった。

 深い山に磨かれた水と、その水に育まれた鮎と、森の幸を自らの身に変えた熊と……。ああ、忘れちゃならない、その水が育てた米で醸した酒と……。

 これ以上の愉楽は、どうあがいても経験できない。それがはっきりわかるような美味体験だった。

 いつかまた、行きたいな。そう思いながら飲むと、私の日ごろの安酒も、また、妙にうまくなるのである。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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