収納ケース大手「天馬」でお家騒動 創業一族がドロ沼争い

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 ホームセンターなどで売られているプラスチック製の収納・衣装ケースを自宅でタンス代わりに使っている人は多いのではないか。そんな収納ケースのトップブランド「Fits」(フィッツ)を展開している大企業が、東証一部上場の天馬株式会社(廣野裕彦・代表取締役、東京都北区)だ。JR赤羽駅から5分ほど歩いて繁華街を抜けると、現在は改装工事をしている立派な本社ビルが見えてくる。

 その「天馬」の創業者一族が、昨年からプロキシーファイト(株主総会での委任状争奪戦)を繰り広げている。戦いは今年6月末に開かれる株主総会へと雪崩込み、一族の間で裏切りの連鎖、「漁夫の利」を狙う外資ファンドを巻き込んだ展開になっている。

■創業一族が「ベトナムの不祥事」で決裂

 天馬の売上高は20年3月期で850億円。そのうち250億円は中国、370億円は東南アジアで稼いだもの。日本発ブランドとしてアジアで収益を上げ、従業員数はグループで7000人を超える。

 天馬は1949年、済州島(韓国)出身の4兄弟により設立され、半世紀の時を経て巨大企業に成長した。ところが今、二男一族と、四男一族が文字通り骨肉の争いを続けている。

 発端は一昨年に発覚した東南アジア・ベトナムでの不祥事だ。天馬の現地子会社が17年から19年の間、現地の税務当局に「賄賂」を支払っていたことが明らかになった。

■四男が「天馬のガバナンスを求める株主の会」を発足

 当時の天馬は、4兄弟の二男の息子で、4代目社長の金田保一氏(77)が会長、社長は非創業家で生え抜きの藤野兼人(68)、専務に四男で3代目社長・司治氏(87)の息子の司久氏(58)、常務に金田氏の息子の宏氏(43)に加え、ほかに常勤の取締役が2名、社外取締役が3名、という体制だった。天馬は19年末、贈収賄疑惑を調査する第三者委員会を設置し、経営陣の管理責任が追及された。

 その結果、金田会長と藤野社長、司久氏は身を引いたため、宏氏を社長とする方向で調整されていた。

 ここで謀反を仕掛けたのが、名誉会長の肩書を持つ司治氏である。司氏は「天馬のガバナンス向上を求める株主の会」を発足。20年6月の株主総会に向け、ベトナムの汚職事件の直接の責任者は非創業家の前社長であるものの、「創業家が取締役に就任している」ことが問題として、宏氏の取締役再任に反対する運動を展開したのだ。

 これに呼応するように、社外取締役の「監査等委員」が金田氏の再任に異議を唱えた。司氏はメディアを巻き込み、「創業家の乱」を演出した。

■長男一族は四男一族から離反

 当時、司元名誉会長はまとまった株を持つ長男一族を味方につけ、約24%の株を握っていた。対する二男一族の会社側は約16%で劣勢。キャスティングボートを握るのは、約15%を保有するダルトン・インベストメントというニューヨークを拠点とするファンドだった。新生銀行に社外取締役の増員を迫るなど、経営陣に規律を求めるアクティビスト(物言う株主)ファンドである。

 ところが、ダルトンは宏氏らの会社側につき、勢力は拮抗する。宏氏の取締役就任はかなわなかったが、辛くも司氏側の提案候補を阻止。とはいえ、司氏側は提案した議案が40%強の賛成を集めたことで勢いづき、今年の総会では司一族が逆転するのではとの見方も出ていた。

 しかし、裏切りは連鎖する。長男一族が司一族を見限り、なんと会社側の二男一族に全保有株式を売却。司氏側の持株はわずか12%に減少。一方で、会社側の二男一族側はダルトン保有分と合わせると40%を超え、議決権での勝負は一転して、会社側が優位となった。

劣勢に立たされる四男の司一族

 さらに、司一族に呼応した社外取締役の監査等委員が、経営を監視するコーポレート・ガバナンス(企業統治)という「大義」のためというより、司一族の〝走狗〟として動いていた事実も明らかになった。

 天馬が4月に公表した報告書によると、監査等委員は19年暮れに取締役会をサボって、司氏が主宰した「反会社」キャンペーンの会合に参加。当時の”非創業家の生え抜き”藤野社長の悪材料を収集するよう、司氏から指示を受けていたという。

 また監査等委員は公表前の第三者委員会報告書を取締役会の決定を経ずに司氏側に漏洩し、反会社キャンペーンを張らせていたようだ。さらに、監査等委員会の議事録を改竄しただけでなく、不当に破棄したり、自宅に保管するなどしていたという。

■香港ファンドの見解は

 結局のところ、ガバナンス強化を掲げる張本人が、本来独立性を有していなければならない監査等委員を操り、ガバナンスを無視した戦法を取っていたことになる。これ自体、司一族が批判する「創業家による不当な支配」と言わざるを得ない。

 天馬に投資している香港のアクティビストファンドのオアシスは、「一連の内部紛争こそが、同社の新型コロナウイルス感染症の流行を受けての企業としての舵取り、コーポレート・ガバナンスの強化、及びあらゆるステークホルダーの利益を最大化する企業価値の改善への取り組みの妨げになってきた」との見解を表明している。議決権行使助言会社大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は今年の株主総会では、会社側提案を株主に対して賛成推奨している。

 大企業の経営権を巡る一族の争い。「創業家の乱」から一転、四面楚歌となった謀反の一族にはどのような末路が待ち受けているのか。

 株主総会は6月29日に開かれる。

(取材・文=村上力/ライター)

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