著者のコラム一覧
小沢コージ自動車ジャーナリスト

雑誌、web、ラジオ、テレビなどで活躍中の自動車ジャーナリスト。『NAVI』編集部で鍛え、『SPA!』で育ち、現在『ベストカー』『webCG』『日経電子版』『週刊プレイボーイ』『CAR SENSOR EDGE』『MONOMAX』『carview』など連載多数。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのカーグルメ』パーソナリティー。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)、『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた 27人のトビウオジャパン』(集英社)など。愛車はBMWミニとホンダN-BOXと、一時ロールスロイス。趣味はサッカーとスキーとテニス。横浜市出身。

夢コラボ初上陸! ソニー・ホンダモビリティ「アフィーラ1」にやっぱり期待してしまうワケ

公開日: 更新日:

ソニー・ホンダモビリティ「アフィーラ1」

 1月下旬、待望の「アフィーラ1」が銀座ソニーパーク屋上に初上陸した。そう、2年前のジャパンモビリティショーで公開されたITの巨人ソニーと自動車のホンダの国産EV夢コラボ、「アフィーラ」ブランドの第1号車である。

 厳密には、1月6日に北米ラスベガスCES(テクノロジー見本市)で発表済みで、その北米プロトタイプ版が日本にやってきたのだ。

 北米カリフォルニア限定だが、すでにネット受注が始まっており、価格も発表済み。2025年中には北米で正式発売、翌26年には北米納車が始まり、日本でも26年頃に発売予定だ。

 正直、まだ動かせないし肝心の車内エンタテインメントも体験できない。ただ、遂に“ソニーホンダのEV”が出るんだという想いもあり、実車を見に行ってみた。

 ぶっちゃけ言うと、大成功が約束されたクルマではない。ソニー&ホンダのビッグネームには当然期待だが、デザイン&サイズ戦略は存外にフツー。

 全長4.9m強×全幅1.9mのラージセダンサイズは、競合とされるテスラモデルSとほぼ同じ。また今後SUVのアフィーラ2、普及版のアフィーラ3が登場するとも言われ、その辺りの商品戦略もテスラと似た流れと言える。

デザインは刺激は薄め、動力性能は少々期待はずれ

 肝心のエクステリアは、プロトタイプそのままの超すっきりオーバルデザイン。なによりもルーフに取り付けられたタクシーの行灯の如きデカいライダー(レーザーで距離や形状を測定するセンサー)やカメラが目立つ。

 空力的には優れてそうだが、イタリア車のごとく既存のクルマ美学を追ったものではなく、要するに“走るスマホ”デザイン。ユニークと言えばユニークだが、刺激が薄いと言えば薄い。

 動力性能はフツーどころか、少々期待はずれだ。電池素生は明らかにされてないが、91kWhのリチウムイオン電池を搭載し、254psモーターを前後に配したツインモーターAWDで、フル充電からの航続距離は300マイル(483km)以上。

 最新のテスラモデルSが約100kWhの電池を積み、最速モデルで1020psを発揮し、ロングレンジモデルで航続距離が600km台であることを考えると、後発なのにそれでいいの? と思わなくもない。

 肝心の価格もベーシックなオリジンが8万9900ドル(約1420万円)から、上級のシグネチャーが10万2900ドル(約1630万円)で、北米価格はモデルSと似てるが、日本円に換算すると日本のモデルSより高い。ここまで聞くと戦略的には不安になる。

 だが違う。アフィーラ1はテスラはもちろん、既存のEVとは全く違う価値観で勝負するのである。それはいわゆるソフトウェア優先のSDV(ソフトデファインドビークル)戦略であり、もっと言うとソニーならではのデジタルエンタテインメントカーだ。

走る“電脳ソニー劇場”に

 まず凄いのはECUの超絶性能で、今後SDVがこぞって搭載する米クアルコム社の最大800TOPS(1秒間に800兆回)の演算能力を持つスナップドラゴンという最新チップを6つも搭載。それも自動運転用に4個 車内エンタメ用に2個と贅沢に使う。

 さらに冒頭の高価なライダーセンサー1個だけでなく、車内外に18個のカメラ、9個の他センサー、12個のソナーと合計40個のセンサーを搭載。走るクルマというより、走るコンピューターだ。

 何より提供する価値観が違い、アフィーラ インテリジェントドライブなる先進運転機能は、レベル2プラスから将来的にはレベル3に対応するようで期待大だ。

 もう一つはソニーならではの走るエンタテインメント空間の創造で、運転席前は全面モニターのパノラミックスクリーンでリアにもビッグモニター2つを搭載可。同時にソニー自慢の360リアリティオーディオやサラウンド効果のドルビーアトモスで、没入感ある立体的な音空間を提供。

 オマケにソニーピクチャーズの映画コンテンツやアニメ『鬼滅の刃』の最新作、NFL=ナショナルフットボールリーグからもコンテンツ提供が受けられるらしい。まさに走る“電脳ソニー劇場”になるのだ。

 もちろん、それが本当に感動の新デジタルエンタメ空間になるかはわからない。

 ただ安い電池素材を大量に中国に握られている今、良品廉価なEVという部分で日本ブランドはほぼ勝負できない。日本でしか生み出せない高付加価値エンタテインメントで行くしかないのも事実なのだ。

 ソニーホンダはもちろん、今後日本が本当に新たなデジタル的な移動快楽を作り出せるのか? やっぱりそこに期待したくなっちゃうのである。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • トピックスのアクセスランキング

  1. 1

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  2. 2

    進次郎大臣は連日の視察とTV出演で大ハシャギ…ムチャぶりされる農水省は“ブラック企業化”のお気の毒

  3. 3

    ドン・キホーテが進次郎農相に異例の「直訴」…コメ流通は消費者ファーストではないのか? 識者が解説

  4. 4

    三井化学が石油化学事業を分社化…その先で描くのは過剰な同業他社との再編だ

  5. 5

    進次郎農相「コメ卸業者が営業利益500%増」発言で飛び交う「価格カルテル」疑惑と「コメの先物取引」で懸念されていたこと

  1. 6

    大阪万博は値下げ連発で赤字まっしぐら…今度は「駐車場料金」を割引、“後手後手対応”の根本原因とは

  2. 7

    自公政権の無策で失われていく庶民の味…「カレー」「ラーメン」「焼き肉」「洋菓子」「ステーキ」すべて倒産件数最多

  3. 8

    「ルンバ」のアイロボット社に事業継続困難疑惑…代表執行役員社長が舞台裏を説明

  4. 9

    中野サンプラザ、TOC、北とぴあ…都内で建て替え計画が相次ぎ頓挫する理由

  5. 10

    「プーチン心停止で影武者代行」情報…訪中大失敗のストレス、ロ国内に広がる大統領5選は無理の空気

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波