自民改憲草案の怖さとは…意見広告150本の弁護士が語る

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 発明対価を争った青色LED訴訟を勝ち取り、長者番付に名を連ねた百戦錬磨の弁護士・升永英俊さんが、賛同者とともに新聞各紙にたびたび意見広告を出している。その数、150本以上。1票の格差是正の訴えに始まった意見広告は、憲法改正にテーマを広げている。ズバリ指摘しているのが、自民党の改憲草案に並べられた緊急事態条項や言論の自由を奪う怖さだ。

■ヒトラー独裁にも“緊急事態”は利用された

――改憲草案を批判する意見広告を出そうと思われたきっかけは?

 改憲草案98条、99条で戦争や内乱、大規模災害が発生した場合に首相は「緊急事態宣言」を出せるとしています。これは9条改正とは比べものにならないほど怖いものなんです。麻生財務相が「ナチスの手口に学んだらどうかね」などと発言して物議を醸したことがあったでしょう。僕の頭の中で、緊急事態宣言と麻生発言がリンクした。そうしたら、腹の底から恐怖心が湧き上がってきた。マスコミが取り上げないので、意見広告を出して世間にその恐ろしさを訴えているんです。

――麻生発言というのは、2013年の講演会での「ワイマール憲法がいつの間にかナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気が付かないで変わったんだ。あの手口に学んだらどうかね」ですね。

 ヒトラーは第1次世界大戦や世界恐慌で疲弊したドイツ経済を立て直し、失業率を改善。それで、国民の圧倒的支持を背景に1933年3月に全権委任法を成立させ、独裁を完成したとされている。僕もそう思い込んでいて、民主主義にもリスクが潜んでいる、多数決は危険だと考えていた。ところが、調べてみると全くの誤解だった。ヒトラー独裁は、国政選挙での多数決によるものではなかった。

――どういうことですか。

 ヒトラー内閣の発足が33年1月。その直前の総選挙でヒトラー率いるナチ党の得票率は33・1%に過ぎませんでした。そこで、ヒトラー政権は大統領に2回の緊急事態宣言を発令させた。1回目の宣言で報道や言論の自由を停止。国会議事堂放火事件の直後に2回目の宣言を出し、ほんの数日間で約5000人を逮捕・拘束したのです。それで一気に独裁政権を樹立した。33年11月の総選挙でのナチ党の得票率は92・2%という異常な数字に達したのです。

――緊急事態宣言を巧妙に利用し、恐怖政治で国政の多数決を仕立て上げた。

 国会議事堂が焼失したため、全権委任法を成立させた国会はクロル・オペラハウスで開かれました。オペラハウス周辺や議場代わりの会議場には銃を手にした突撃隊(SA)や親衛隊が配置されていた。会議場の正面には大きなカギ十字を描いた旗が掲げられていました。そうした異様な雰囲気の中で採決が行われたんです。国会の決議と呼べるようなものではなかったんですよ。緊急事態宣言がそうした異常事態を可能にしたんです。80年以上前の出来事ですが、いまトルコが置かれている状況はこれと非常に似ています。

■“お手本は”とトルコと中国

――トルコでは7月のクーデター未遂事件を受けて、エルドアン大統領が、「非常事態宣言」を発令しました。

 マスコミは「非常事態宣言」と表記していますが、あれは緊急事態宣言そのものです。それ以降、大規模な粛清を行っている。まるで魔女狩りです。3万5000人以上を逮捕・拘束し、8万人以上を免職や停職処分にしたと伝えられています。エルドアン大統領も緊急事態宣言で独裁政権を確立した。これが緊急事態宣言の怖さなんです。

――それでも、自民党などの改憲派は緊急事態条項を支持しています。

 改憲派は自然災害に備えるために緊急事態宣言条項を定めた改憲草案98条、99条が必要だと主張しています。しかし、地震や津波といった自然災害などへの対処は、現憲法で十分に対応できます。すでに▼災害対策基本法▼武力攻撃事態法▼原子力災害対策特別措置法▼石油コンビナート等災害防止法――が整備されています。不足があれば補強するなり、新法を制定すればいいのです。憲法改正は不要です。

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