改憲の提案権は事実上、自民党にあるが、最終的な決定権は主権者国民にある
憲法改正問題を真面目に考えよう(8)
憲法96条に明記されているように、改憲は、国会各院の3分の2以上の賛成で提案できる。しかし、国民投票で過半数の賛成を得なければ成就できない。
これが、これまで国民投票が実施されないできた一番の理由である。
現行の選挙制度の下では、50%未満の得票率で3分の2の議席を獲得することは現に可能である。しかし、これまでのところ、公開討論を経たうえで国民の過半数の賛成を得られそうな提案ができないことが議論の進行を妨げてきた。
現に本連載コラムでも指摘したように、自民党の改憲4項目はどれも緻密な論争に耐え得るものではない。「緊急事態条項の新設」案は不必要かつ有害であり、むしろ、法律の整備と政府による責任ある法執行こそが求められている。「参院合区の解消」案は、現職議員たちの既得権保護の画策に等しく、「一人一票の原則」を破壊する悪巧みである。「教育の充実」の提案は、法律と予算を定めれば済むことで、もとより改憲の話題ではない。
ただ、「『自衛隊』加憲」論は、今、着実に国民的共感を広げつつある。それには中国の振る舞いが追い風になっている。南シナ海に人工島(基地)を造りそれを「領土だ」として実効支配を行っている中国が、歴史的にも国際法上も間違いなくわが国の領土である尖閣諸島の実効支配を求めて軍事行動を強めている。ウイグルや香港の事態も公知で、中国の行動を多くの日本人が不快かつ不安に思っている調査結果もある。
だから、「9条加憲」案が世論の支持を得て提案として出てくる可能性が高い。
本コラム③で指摘したように、この改憲案の真の争点は、自衛隊の「海外派兵の是非」である。つまり、米軍と自衛隊が同盟軍として世界に展開すること、or、これまでの専守防衛+日米安保に徹することの、いずれが日本の平和と独立を確実にするか? という前提問題がある。これは、憲法論ではなく、国際政治の問題である。
だから、私たちは、最終的な決定権を握る主権者国民として、まず、この安全保障の基本方針について堂々と論じ合うべきである。 (この項おわり)
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