<第9回>血の滴るステーキを見た瞬間、ナイフとフォークを置いた

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 目の前に置かれた分厚い肉の塊が、いまも鉄皿の上でジュージューと音を立てている。網状の焦げ目と、ガーリックのにおいは強烈に胃袋を刺激した。

「このステーキは絶対にうまい」

 モンゴル人力士はフォークとナイフを手に取りながら、ゴクリと喉を鳴らした。

 来日して数カ月後、先輩の幕内力士の厚意でタニマチと共に都内のステーキハウスに連れていかれた。食通の間で評判の店。日本で頑張っているだけに、せめてうまい肉を食わせてやろうという先輩からの心遣いだった。しかし、肉を切った瞬間、食欲も期待も、一気にしぼんでしまった。モンゴル人力士は、黙ってナイフとフォークを置いた。先輩力士はけげんな表情で肉を見る。肉汁と共に赤い血が滴る、見事なレア。この店で最も人気のある焼き方だ。「おい、どうしたんだ」と聞く先輩に、モンゴル人力士はこう答えた。

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