著者のコラム一覧
岡邦行ルポライター

1949年、福島県南相馬市生まれ。ルポライター。第3回報知ドキュメント大賞受賞。著書に「伊勢湾台風―水害前線の村」など。3・11後は出身地・南相馬中心に原発禍の実態を取材し続けている。近著に「南相馬少年野球団」「大島鎌吉の東京オリンピック」

東京五輪の開会式 2人の遺影をポケットに忍ばせ行進した

公開日: 更新日:

スポーツこそが世界平和を構築する

 この逸話には続きがある。76年のモントリオール大会陸上競技走り高跳びに出場した、広島市立大名誉教授の曽根幹子の追跡調査で明らかになったのだが、大島は、36年ベルリン大会陸上競技砲丸投げに出場した高田静雄の遺影もポケットに忍ばせていた。

 広島市生まれの高田は、戦前は「砲丸王」と呼ばれ、日本陸上競技選手権で通算6度優勝。ベルリン大会では予選落ちだったが、持参したカメラで内外のオリンピアンを撮影するなど交流を深めた。

 しかし、敗戦の年の45年8月6日。高田は勤務先である広島市の中国電力本社で被爆。敗戦後は被爆の後遺症に苦しめられるが、「選手たちを撮り続けたい」と、プロカメラマンに転身し、国際写真コンテストで話題になったこともある。

 だが、年々被爆の後遺症による白血病が悪化。東京オリンピック開催10カ月前の63年12月10日に亡くなった。享年54。

 そのような高田静雄と旧交を温め、病床を見舞っていたのが大島だった。

「開会式の写真を撮りたい」と語っていた彼の意をくみ、遺影をポケットに収め、開会式に臨んだ。

 愛称は鎌さん。大島鎌吉は、権力者と闘うオリンピアンでもあった。米国に追従し、80年モスクワ大会をボイコットした際は、政治家を強く批判。世界124カ国・地域のNOC(国内オリンピック委員会)に英文と独文を送付。オリンピック参加を呼びかけている。

 スポーツこそが世界平和を構築する――。

 終生、そう語っていた大島。85年3月30日に帰らぬ人となった。IOC(国際オリンピック委員会)から「オリンピック・オーダー銀章」が贈られた。享年76。金沢市経王寺の墓に刻まれた「雄躍院芳薫日鎌居士」の法名は、柔らかな日差しを浴びて光っていた。

【連載】東京五輪への鎮魂歌 消えたオリンピアン

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情