著者のコラム一覧
岡邦行ルポライター

1949年、福島県南相馬市生まれ。ルポライター。第3回報知ドキュメント大賞受賞。著書に「伊勢湾台風―水害前線の村」など。3・11後は出身地・南相馬中心に原発禍の実態を取材し続けている。近著に「南相馬少年野球団」「大島鎌吉の東京オリンピック」

猿渡武嗣さんは妻に笑われた占いの「39歳で死ぬ」が現実に

公開日: 更新日:

1964年東京五輪・1968年メキシコ五輪・陸上3000メートル障害 猿渡武嗣さん(上)

「俺は、39歳で死ぬらしい。占いにはそう出ているんだって」

 猿渡武嗣が妻の比都美に、そう言ったのは1969年春。結婚して間もなくだった。

「何冗談を言ってんのよ。あなたは殺されても死なないわよ。馬みたいなんだから……」

 妻の言葉に夫は笑った。だが、結婚13年後にその冗談が現実となる。

■「起こさないでください」

 その日、82年7月21日。猿渡は、赴任先の新日鉄室蘭から東京の新日鉄本社に出張中だった。前日の夜、久しぶりに会う本社勤務時代の同僚と好きなマージャンをし、宿泊するホテルに戻ったのは明け方。

「起こさないでください」のカードをドア外のノブに吊るして寝たが、昼すぎになっても起きてこない。

 心配した従業員が部屋を訪ねたところ、息絶えていた。39歳、死因は心不全――。

 猿渡は、決して傑出した選手ではなかった。

陸上競技は才能やフォームではなく、努力と勝つことへの執念です」

 こんな気概で何度も3000メートル障害の日本記録を塗り替え、東京とメキシコの2大会連続でオリンピックに出場。アジア大会を2度制した。

 現役時代の同僚の話によると、きちょうめんで独自の練習メニューを作成。黙々と練習する典型的な努力型の地味な選手だった。

 そのような性格の猿渡は、75年に現役選手引退後、社員の健康促進活動や各部署への予算配分などをする、東京本社厚生課に配属された。

 以後、5年間にわたり、社員に文化・スポーツ活動を推進。とくに皇居1周マラソンを積極的に勧めた。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カーリング女子フォルティウス快進撃の裏にロコ・ソラーレからの恩恵 ミラノ五輪世界最終予選5連勝

  2. 2

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  5. 5

    高市政権「調整役」不在でお手上げ状態…国会会期末迫るも法案審議グダグダの異例展開

  1. 6

    円満か?反旗か? 巨人オコエ電撃退団の舞台裏

  2. 7

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 8

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 9

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  5. 10

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー