ボクシング並木月海 通学に5時間かけボクシング漬けの日々

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並木月海(ボクシング/22歳・自衛隊 所属)

「天心の家もきょうだいが多くて、親同士も仲がいいんです」

 格闘界の神童・那須川天心(22)とは家族ぐるみの付き合いだ。幼稚園の年長の頃、極真空手の大会の決勝戦で拳を交えたことから先に親同士が仲良くなり、親交が始まったという。

 並木は千葉県成田市で、運送業を営む格闘技経験者の父のもと、4人きょうだいの末っ子として産声を上げた。物心ついた頃から姉や兄が極真空手を習っていたことから、並木も幼年から稽古に明け暮れた。小学3年になると極真空手に加え、那須川の影響からキックボクシングを開始。週に5日は道場とジムに通う日々を過ごした。

「殴り合いの喧嘩? 兄たちとすらしたことありませんよ。引っ込み思案で人前に出るのも苦手だったんです。学校行事の演劇で、本当は2、3番手のちょっと目立つ役をやってみたい気持ちはあるけど、手を挙げられない、みたいな」

 控えめな性格だったという並木は、中学入学と同時に格闘技から距離を置き、陸上部に入部した。

「格闘技って女の子らしくないじゃないですか。突発的に空手もキックボクシングもやめてしまいました。一種の中学デビュー……、ですかね(笑い)」

 だが、自由な生活を謳歌したかといえば、そうではなかった。

「何となく入っただけなので陸上には興味がありませんでした。熱中できるものがないとダメみたいです。そこで、中学1年の終わり頃に、何かハマれるものはないかなとネットで調べていたら、家の近所にボクシングジムがあることを知って。最初はフィットネス感覚で始めたんです。でも、気が付いたら本気になっていて。陸上部の方は幽霊部員になりました(笑い)」

 中学生からボクシングを習う女子はそう多くない。高校女子ボクシングの強豪、花咲徳栄高(埼玉県加須市)の木庭浩介監督の目に留まったことで、同高に推薦入試を経て入学。3年間、成田市の実家から片道2時間半かけて通った。電車の乗り換え回数は4回。平日の帰宅時間は21時半を過ぎ、週に2回の朝練がある日は太陽が昇る前に起床して始発電車に乗り込んだ。

「明け方まで(運送業の)仕事をする父が電話で母を起こして、母は毎日弁当を作ってくれました。3年間ボクシングに集中できたのは両親のおかげです」

入隊1年目は自分を見失った

 高校時代は全国高校選抜、日本選手権ジュニア、インターハイなどで計5回の優勝を飾り、通算27戦無敗という記録を打ち立てた。数々の大学から声が掛かったが、卒業後は自衛隊体育学校へ。鳴り物入りで入隊したものの、そこには試練が待っていた。新たな環境で、新しいコーチらの指導を受けているうちに、自分のスタイルを見失ったからだ。愛媛国体では決勝、日本選手権では準決勝で散った。

「3年間負け知らずだったので大きな挫折でした。これまでやってきたことが正しかったのかと自信が揺らぐ感覚です。アマチュアボクシングはトーナメント形式。2位だったとしても、もし決勝の相手と1回戦で当たっていたら“初戦敗退”だったわけですよね。私にとって優勝以外は全部同じなんです。このままではダメだ、本気で五輪を目指すのならばもっとボクシングに集中しようと。練習の意味を自分の頭で考え、私生活では食事はもちろん、睡眠やお風呂なども見直して“強さ”を求めました。迷いに迷った1年目があったからこそ、今があるんだと思います」

 心機を一転してから半年、18年6月にカザフスタンで開催された大統領杯に出場し、優勝を飾った。入隊以降、自身初のこの海外遠征で手応えを掴み、1年に及ぶ「迷いに迷った」長いトンネルを抜けだした。自信を取り戻すと、同年11月の世界選手権では銅メダルを獲得。以降、現在に至るまで国内外でメダルの山を築いている。

「コロナによる1年間の延期は『もっと強くなれる』と、プラスに捉えています。自粛期間では鏡を見ながら打ち方の確認など、基本的なことからじっくり自分と向き合うことができました。東京五輪では、私の持ち味であるステップワークとパンチ力を見てほしいです。私はフライ級の中では小柄(153センチ)。『小さくても意外とここまでやれるんだな』と思ってもらえるような試合をしたいです」

 日本の女子ボクシングで五輪に出場した選手はいない。「日本人初」として、新たな歴史を刻む。

▽なみき・つきみ 1998年9月17日、千葉県成田市生まれ。姉と2人の兄がいる。花咲徳栄高時代は3年間無敗記録を作った。自衛官として臨んだ一昨年の世界女子選手権で銅メダルを獲得した。趣味はお菓子作り。

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