東京五輪でIOC丸儲けも…日本国民に重くのしかかかる「4兆円の後始末」

公開日: 更新日:

「パンデミック下で初めて世界が一つになった。日本のみなさま、成し遂げたことをどうか誇りに思ってください。ありがとう日本」

 8日に行われた東京五輪の閉会式。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長はこう言って、「成功」を強調した。9日には、菅義偉首相や組織委の武藤敏郎事務総長も、ことさら成果をうたった。

 日本は金メダル27個を含む、史上最多の58個のメダルを獲得。連日、メダルラッシュに沸き、新聞やテレビは「お祭りムード」をあおり続けた。

 大会前、大手メディアの世論調査で国民の80%が開催に反対していた「大催」を強行した結果、IOCが放映権料などで多くの収入を得た一方、東京都や政府はコロナの感染爆発を招いた上に、巨額の借金を抱えることになる。

 日本全国のコロナ感染者数は五輪開催を機に急拡大。8月9日までの1週間で約9.5万人増え、増加幅は前週の1.5倍になった。

■赤字は2兆円規模

 経済的損失も計り知れない。2013年9月に東京が開催都市に決定して以降、都や政府、組織委が五輪のために使ったカネは「総額3兆円」に上るといわれている。

 招致当時、総額7340億円とされていた経費は、会場周辺の道路整備費など、見積もりに含まれていなかったものが多く、五輪が近づくにつれてどんどん膨らんだ。さらに、コロナ禍による1年延期により、3000億円といわれる追加費用も必要になった。

 政府は今年初め、五輪開催の経費を計1兆6440億円と発表したが、この金額には、東京体育館(渋谷区)など既存施設の改修費用など都が負担する「五輪関連経費」などは含まれていない。

 週刊ポストによると、これらを合わせた経費の総額の内訳は、東京都「1兆4519億円」、政府「1兆3059億円」の合計約2兆7500億円に上る。都と政府の財源は税金で賄われており、1人当たりの税負担額は都民が「10万3929円」、都民の負担金を除いた国民1人当たりの負担は「1万408円」になるという。

長野は694億円の借金返済に20年

 しかし、都民、国民にのしかかる負担は、これだけにとどまりそうにない。3兆円の経費には、組織委の赤字補填やコロナの水際対策などは加味されておらず、これを含めた総費用は4兆円規模に膨らむとみられる。日本が獲得したメダル1枚当たりの金額に換算すると約690億円だ。「感動はおカネでは買えない、おカネに変えられない」というが、費用対効果としては高すぎやしないか。

 組織委が900億円と見込んでいた入場料収入は、全体の約97%が無観客開催となり、約20億円程度に激減した。大会前から盛り上がりに欠けたことで、グッズの売り上げも低調だったとみられている。

 12兆円を見込んでいた「レガシー効果」も大幅減は必至だ。これは都民や国民が得られる「投資対効果」のことだ。組織委が経費で建設した競技場や、通信インフラなどの整備により、一定のレガシーは残るが、無観客開催かつ海外からの観光客受け入れを断念したことで、観光需要の拡大や国際ビジネスなどのインバウンド効果は、期待外れに終わるに違いない。

 1998年の長野冬季五輪では、長野新幹線の開通などを「有形無形のレガシー」と評価する一方で、施設整備などで1兆6000億円もの県債を抱えることになった。長野市は979億円を投じて6つの競技会場を建設したが、その際の694億円の借金は20年後の18年3月にようやく完済。101億円かけて造られたボブスレー、スケルトン会場は、年間2億2000万円の維持費がかさみ、同年2月に競技利用が休止に。負の遺産の象徴となっている。

「東京五輪の赤字は1兆5000億~2兆円規模に達する可能性があります」

 と言うのは、関大名誉教授の宮本勝浩氏(理論経済学)だ。

「収支決算が出るのはまだ先ですが、当初見込んでいた収入は大幅に減るでしょう。入場料収入はもちろん、都や国が観光業や消費などで見込んでいた消費税、所得税などの税収は、大打撃を受けているはずです。消費が減り、企業の売り上げが減れば、法人税にも影響が出ます」

■所得税、住民税増税

 国士舘大非常勤講師でスポーツライターの津田俊樹氏は、「都や政府はお祭り騒ぎの後始末を、都民、国民に背負わせるつもりではないか」と、こう続ける。

「早くも東京都の住民税が上がるのでは、と言われている。都は日本の自治体の中で最もおカネ持ちでしたが、コロナ禍と五輪による損失で金庫はカラッポ状態といいます。都だけでは到底、莫大な借金を賄いきれない。そうなると国が負担することになるでしょうが、政府は折からのコロナ禍による損失と五輪の損失をごちゃ混ぜにして、東日本大震災の復興増税のように、所得税の増税を強行しても不思議ではない。何より都や組織委に求めるのは、経費に関する詳細を包み隠さず明らかにすることです。長野五輪時には、五輪招致費用が記載された会計帳簿を焼却し、長野県庁が不問に付した。日本は公文書の扱いにおざなりなところがある。都は組織委による公文書を保管する条例を作ったが、ただ単に金額だけを出すのではなく、一つ一つの支出について、どの組織のどの人間がどう関わったのか、経緯をつまびらかにするため、メディアが中心となって徹底的に追及するべきです」

 都や政府、組織委がつくった借金の肩代わりをさせられるなんてまっぴらゴメンだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  3. 3

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  4. 4

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  5. 5

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  1. 6

    志村けんさん急逝から5年、更地になった豪邸の記憶…いしのようことの“逢瀬の日々”

  2. 7

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  3. 8

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  4. 9

    広陵野球部は“廃部”へ一直線…加害生徒が被害生徒側を名誉棄損で告訴の異常事態

  5. 10

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった