大谷翔平リーグ首位15敬遠の深層…「日本人ホームラン王」を望まないアメリカ人と中南米選手の本音

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 その瞬間、バットを投げて苦笑いを浮かべた。

 日本時間23日の対アストロズ戦。5―5の同点で迎えた延長十回無死二塁、エンゼルスが一打サヨナラのチャンスを迎えた場面で、大谷翔平(27)が打席に入った。

 本拠地のファンはサヨナラ弾を期待、一気にヒートアップしたものの、声援は一瞬にしてブーイングに変わった。2ボールとなったところで、アストロズベンチのベーカー監督が敬遠を指示したからだ。

 大谷は苦笑いでバットをくるっと回すと、ゆっくり一塁に向かった。

 2点リードの七回2死二塁でも申告敬遠で歩かされ、この日は2打席連続敬遠を含む自身最多の1試合4四球。本塁打は45本のままで、ライバルのゲレロ(ブルージェイズ)とペレス(ロイヤルズ)を1本差で追う状況に変化はなかった。

 大谷の15敬遠は2位のクルーズ(レイズ)らに5個差をつけてア・リーグでダントツ。エンゼルスは結局、延長十二回、アストロズに敗れて6連敗を喫したように、対戦相手が大谷との勝負を避ける最大の理由は、大谷以外に怖い打者がいないからだ。エンゼルスの主砲であるトラウト(30)とレンドン(31)の2人が故障で長期離脱中。

 大谷ひとりをマークすれば勝つ確率が上がる状況だけに、プレーオフを狙うチームがレギュラーシーズン終盤のこの時期、勝利を優先するのは当然といえば当然。しかしながら、大谷が勝負してもらえない理由はそれだけか。

■近鉄ローズが「世界の王」を抜いてもいいのか

「2001年に近鉄のローズが本塁打を量産、55本打って王貞治(現ソフトバンク球団会長)の日本記録に並ぶ前後から、相手投手が勝負を避けるようになった。868本塁打の記録を持つ世界の王を抜いていいのかという機運がプロ野球界にあったといわれました。当時と似たような空気がメジャーにあったとしても不思議ではない」と言うのは米紙コラムニストのビリー・デービス氏。

 野球文化学会会長で名城大准教授の鈴村裕輔氏が引き取って言う。

「米国人は直球勝負を好みます。投手は何より速い球を投げることが好まれ、打者には単打より本塁打を求める。本塁打王のタイトルは米国で特別な意味を持つと言っても過言ではありません。なので米国人が本塁打王のタイトルを取った方がうれしいという感情はあるかもしれません」

「本塁打王はゲレロかペレス」が中南米投手の心情

 とはいえ、実際にタイトルを争っているのは日本人の大谷と、ドミニカ共和国とカナダの二重国籍を持つゲレロ、ベネズエラと米国の二重国籍のペレスの3人だ。

「特に米国は、トランプ前大統領に象徴されるように白人至上主義が根強い。いまだに映画『フィールド・オブ・ドリームス』が支持されるのは主要な登場人物が白人で、そのモデルになったブラックソックス事件も8人全員が白人だったからという話があるほど。大リーグ機構が『ジャッキー・ロビンソン・デー』を設けたり、今年の球宴で1月に亡くなった通算755本塁打のハンク・アーロンさんの功績を称えたのもメジャーは白人至上主義ではないと示すためで、それこそ米国に白人至上主義がはびこっている証左です。それでも米国にとって中南米諸国は日本と比べて長い付き合いがある。悲運の事故死を遂げたプエルトリコ出身のメジャーリーガーにちなんで、慈善活動に熱心なメジャーリーガーに贈られる『ロベルト・クレメンテ賞』があるように、日本以上に親しみの度合いは大きいと言えます」(前出の鈴村氏)

 米国にとって特別な意味を持つ本塁打王のタイトルは本来、米国人が獲得すれば丸く収まるのかもしれないが、今回はそうもいかない。ならば日本以上に親しみのある中南米勢が獲得した方が“カド”は立たない。結果として米国人気質と中南米勢が大谷のタイトル取りの障害になる可能性もあるということだ。前出のビリー・デービス氏がこう言う。

「メジャーの投手のほとんどは、米国か中南米の出身者です。中でも中南米出身者は仲間意識が強いし、ロッカールームでも固まってスペイン語で話をします。カナダ生まれのゲレロは父親がドミニカ人で、今もインタビューには必ずスペイン語の通訳が付くほど。実質的には中南米出身の選手です。ペレスはベネズエラ出身の捕手で、31歳という年齢から言っても中南米選手のボス的存在です。特に中南米の投手は大谷より、ゲレロかペレスが本塁打のタイトルを取った方がうれしいでしょうね」

 大谷が今後、相手投手とこれまで以上にシビアな対戦を強いられるのは必至だ。

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