元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<3>何事も「おもしろがる」がモットー それがフットサル参戦にもつながった

公開日: 更新日:

 遠いベトナムの地で90日間ものロックダウン生活を強いられた元日本代表MF松井大輔(YSCC横浜)。

「人間らしさが失われていくのを感じた」と言いつつも、そこでへこたれないのが海外5カ国・9クラブを渡り歩いた男の逞しさ。自分なりに新たな生活サイクルを見出し、軟禁生活を少しでも楽しめるように工夫したという。

「『家の中でできることはないか』と探し始め、料理や掃除をイチから始めました」と松井は笑う。

 海外生活が長かった分、もともと何でも自分でやるタイプではあったが、近年は妻の女優・加藤ローサさんに家事を任せっきりだった。だが、単身赴任先のベトナムでロックダウンに見舞われてしまい、食材を何とか入手して自分なりに好きなものを作って食べることにした。

「朝はクレソンとパプリカとトマトのサラダを作るのが日課になりました。それとベーグルにチーズとハチミツをかけたものを食べるのがささやかな贅沢でしたね。昼や夜はカレーとか鶏肉を焼いた料理とかいろいろ作りましたけど、一番ハマったのが韓国料理のサムゲタン。鳥丸ごと一羽はさすがに手に入らないので、もも肉やむね肉を使いました。鍋に鳥ガラと塩コショウ、ニンニクとねぎを入れて煮込むだけなんでもの凄く簡単。それを1回作れば、アッサリしているんで2~3日は飽きないで食べられる。向こうではしょっちゅう作りましたし、ヘルシー料理なので体重も少し減らせました。日本に戻ってからは、圧力鍋を使えるんでより簡単になった。息子2人も喜んで食べていますよ」と松井は嬉しそうに言う。

 掃除も時間をかけてあちこちをマメにやるようになり、日曜大工的なことも手掛けた。

「それ以外にも英語の勉強をしたり、ネットフリックスで興味のある動画を見たりもしましたね。人間、家の中で隔離された時は何かしらやることを見つけるようになるもの(苦笑い)。まさか40歳で修行僧のような日々を送るとは想像もしなかったけど『隔離生活のプロ』になれた気がします」

 過酷な環境に追い込まれても、彼はどこまでも前向きだった。

 何事も「おもしろがる」姿勢というのは松井大輔のモットー。

 それが今回のフットサル参戦にもつながった。

「隔離生活は頑張りましたけど、ベトナムでは7試合しか出ていませんし、まともなトレーニングもできなかった。そういう意味では『終わりよければすべてよし』とは言い切れない。不完全燃焼感を抱いたまま、8月下旬に帰国しました。その時点では、どういう道を歩んだらいいのか、決めかねていました。そこでフットサルの話を聞いて、ストリートサッカーのようにも思えた。子供の頃のワクワク・ドキドキ感を取り戻せるんじゃないかとも感じました」

「フットサルで得た知識をサッカーに還元できるかも」

 京都で生まれ育った松井がサッカーにのめり込み始めたのは、大宅小3年の時。少年団の活動に参加するだけでなく、仲間との公園サッカーにも明け暮れた。

「僕は公園で育ったようなもの。雨でも寒くても公園に集まるのが楽しくて、朝6時から自主練していたくらいです。『キャプテン翼』の翼君がシュートをポストに当ててからオーバーヘッドを決めるというのがあって、それを真似したら肩から落ちたことがありましたね」と本人も述懐していたが、未知なるフットサルであれば、こういった少年時代のようなチャレンジングな気持ちになれるかもしれない……。そう思い至ったのだろう。

 ベトナムの隔離生活で外に出る自由を奪われたことも「思い切り動いて、もっともっと人生を楽しみたい」という情熱を加速させたに違いない。

 彼がJリーグではなく、Fリーグを選ぶというのは自然の流れだったのだ。

「今までとは違う自分を発見できたらいいな、という気持ちもあります。練習が朝6~8時と早い分、その後の時間を他のことに使えたりもするから、指導者もやれるかもしれない。フットサルで得た知識をサッカーに還元できる可能性もある。将来的にも楽しみです」

 9月14日のYSCC横浜入団会見でこう目を輝かせた松井。40歳のオッサンの新たなキャリアが始まった。(つづく)

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