著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<4>“40歳のオッサン”松井大輔はフットサルの素人、基本から叩き込んでいく

公開日: 更新日:

「実はこれだけ大勢の人の前で記者会見をするのは初めてなんです」

 10月8日のFリーグ・湘南戦の後、YSCC横浜の前田佳宏監督は大挙して訪れた報道陣を前に驚きの表情を浮かべた。それだけ松井大輔のFリーグデビューには注目が集まった。

 本人は「まだ戦術を覚えている段階」と苦笑するが、指揮官は「彼の真面目さとひたむきさで若いメンバーに溶け込んでくれて、ホントに少年のような感覚でやってくれています。彼は必ず日本を代表するフットサルになる」と太鼓判を押した。期待は高まる一方だ。

 ◇  ◇  ◇

 松井が公式戦に出場したのは5カ月ぶり。しかも広いピッチの11人制サッカーとは違い、フットサルの狭いコートでは、攻守が目まぐるしく入れ替わる。そのスピードと強度に適応するため、デビュー前2週間は1日4時間超の練習を連日こなし、アスリートの体を取り戻そうと努力したが、20分ハーフの試合全てには到底、出られるはずがない。

「フットサルは交代自由で最初からフル出場する選手はいないんですが、今の自分は40分のうち3分が精一杯。トレーニングで追い込んで自分自身の限界を越えながら、少しずつプレー時間を増やして2~3週間後には、トータル10分はプレーできるようにしたいと思ってます」と本人も意気込みを示す。

チームに前向きな変化

 フィジカル面の引き上げはもちろんのこと、フットサルの戦術理解を深めることも重要テーマ。サッカーは9歳から30年間にわたって積み上げてきたものがあるが、フットサルは全くの素人。基本的なところから叩き込んでいく必要がある。

「相手が前線から積極的にプレスをかけてボールを奪おうとする動きを回避する『プレス回避』という動きがあるんですが、簡単じゃないですね。周りとのパス回しやパス&ゴーなんかもなかなかうまくいかない。どうしても頭で考えてしまうんです。守備もすごく難しい。サッカーだと『チャレンジ&カバー』という基本があって考えなくてもオートマティックにできるんだけど、フットサルはそういうわけにはいかない。1つ1つ考えながらやっているのでまだスムーズにいきません。チームメートとの連携も合わせる必要があるんでホントに大変ですよ。今週はフィジカルと基礎戦術、来週は守備、その翌週は攻撃…といった具合に毎週テーマを決め、仲間に聞いている状態です」

 百戦錬磨の松井も新たな世界への適応には苦慮している様子だ。

 YS横浜のメンバーは20代前半が中心。松井とは20歳近くも年齢差がある。それでも40歳のオッサンは肩肘張ることなく、分からないことは素直に聞いて回る。  

 若手からして見れば「2010年南アフリカW杯・カメルーン戦で本田圭佑(スドゥバ)の決勝弾をアシストした偉大な選手」だろうが、そういう過去の栄光にしがみつくタイプではない。常にフラットな目線で周囲と向き合っているのだ。

「練習後には若いメンバーと一緒に食事に行ったりします。そういう時はもちろん支払いは僕持ち。自分も若い頃からカズさん(三浦知良=横浜FC)にずっと奢ってもらってきたし、若い人には年長者がご馳走しないとダメですから(笑)。この前はラファ(田淵ラファエル広史)とゴルフの打ちっぱなしにも行きましたし、みんなと良い関係が築けている。ベトナムで隔離生活を送っていた時に比べると天国ですよ」と満面の笑みをのぞかせる。

 自然体の松井にYS横浜のメンバーたちも親しみやすさを感じている。キャプテンの伊藤玄がこんな話をしていた。

「大輔さんが加入してチームにはすごく前向きな変化が起きている。僕自身も一緒にやらせてもらってワクワクしますし、他の選手もそう感じています。戦術や緻密な部分も積極的に聞きに来てくれますし、少しずつ積み上がってきているのが分かる。『必ず次に期待してください』とひと言、伝えたいですね」

 次戦は10月24日のエスポラーダ北海道戦。今季は年明けの1月15日までリーグは続き、14試合が残されている。果たして松井のゴールはいつ見られるのか。歴史的な日が待ち遠しい。  =つづく

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋