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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<1>フットサル初挑戦に「なんか面白そうじゃん」とワクワク感を覚えた

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 フランスリーグのルマンを皮切りに5カ国・9クラブでプレーした<流離(さすらい)フットボーラー>松井大輔。40歳になった彼が、9月に日本フットサルリーグ1部のY.S.C.C.横浜に加入し、フットサルのプロ選手に転身することを表明した際には、多くのサッカー関係者やファンが驚いた。

そして10月8日にFリーグ1部・湘南戦で公式戦デビュー。試合は0-3の敗戦に終わったが、彼自身は前後半合計3分間出場。「短いスプリントが多くなるんでふくらはぎがプルプルした」と苦笑いしたが、2012年フットサルW杯(タイ)優勝経験のある元ブラジル代表・ロドリゴに1対1を挑むなど観衆を魅了した。新たな世界で力強い一歩を踏み出した松井の胸の内を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

「カズ(三浦知良=横浜FC)さんは『グランドで死ねればサッカー選手として万々歳」と言ってますけど、僕も<眠る場所>を探しているのかもしれない。正直、36歳くらいからは『持ってる能力の60~70%しか出せなくなっているな』と感じていました。それでもオファーがあるならサッカーがしたい。自分が輝ける場所があるなら、ピッチに立ちたいんです」

 2020年12月にベトナム1部・サイゴンFC移籍に踏み切り、約1カ月が経過した21年1月。松井は5つ目の異国でプレーできる喜びを感じ、充実した生活を送っていた。 その時期、日本は新型コロナィルスの2度目の緊急事態宣言の真っ只中だったが、ベトナムはゼロコロナに近い状態。

「みんなで外食も行けるし、すごく安全ですよ」と本人も嬉しそうな様子を見せていた。ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチ監督時代の日本代表でJFA技術委員長を務めていた霜田正浩監督(現大宮)も就任。

「大輔中心のサッカーをする」と意欲を示していたため、磐田や横浜FC時代よりは確実に彼の出番が増えるはずだった。が、3試合を消化した3月末に霜田監督がいきなり解任され、松井自身も翌4月には「契約解除」と現地で報じられた。

「実際のところは違ったんですけど、代理人のところに複数のJクラブから問い合わせが入った。その中にYS横浜のフットサルもあったんです。でも、その時点ではまだベトナムに残ってシーズンを全うしようと思っていた。この国で引退するつもりで行ったんで、中途半端な形で終わりたくなかったんです」と偽らざる胸の内を吐露する。

 ところが、5月2日の試合出場を最後にリーグが中断。デルタ株の蔓延でコロナ感染者が急増したベトナムはロックダウンに突入した。 

 先が見えない日々が続き、同時期に日本から赴いた高崎寛之(甲府)らは一足先に帰国。松井はリーグ再開を待ち続けたが、事態の進展がないまま時間だけが過ぎ、今季Jリーグ移籍期限の8月15日が目前に迫った。

「その時点でベトナムのリーグ再開が来年2月になると聞き、『日本に戻ろう』と決めました。Jに戻る選択肢もあったけど、3カ月間まともに練習していない自分が加入しても、フィジカルを戻すのに1カ月以上かかる。となれば、もうシーズン終盤ですよね。オファーをくれたチームは『終盤戦のテコ入れのために入ってほしい』ということだったんで、今の僕には難しいなと感じたんです」

「やってみたい」と直感

 そこで松井の琴線に触れたのがフットサルだ。

ちょうど2021年フットサルW杯(リトアニア)の開催期間に当たり、8~9月は国内リーグが中断され、再開は10月。コンディションを上げる時間的余裕もあった。

 加えて「なんか面白そうじゃん」とワクワク感を覚えたという。

「カズさんもフットサルでW杯に出てますし、『すごく難しいけど、大輔ならできるよ』と背中を押してくれました。日本には『郷に入れば郷に従え』とか『出る杭は打たれる』って考え方があるけど、僕は人と同じことをやっててもしょうがないという気持ちが強かった。自分(のプレースタイル)に合ったものを探しているうちに『これはやってみたい』と直感的に思いましたね」

 欧州から東南アジアまでを渡り歩き、オリジナルの生き方を追求してきた異端児は、40歳にして新たな道を見出した。

「正直に言って40歳のオッサンが、イチから体を鍛え直すところからやるのは大変ですよ。デビュー戦前の2週間は、早朝6~8時まで体育館でフットサルの練習をやって9~11時まで(11人制の)YS横浜(J3所属)の練習にも出てましたからね。もう体がバキバキですよ」と笑った松井だが、湘南戦の彼は、ベトナムでは得られなかった試合ができる喜びを体いっぱいに表現していた。

 プレー環境は芝生から体育館に変わったが、生粋の挑戦者は、これからも先へ、先へと己の信じた道を突き進んでいく。(つづく)

【連載】松井大輔 フットサル挑戦の深層

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