巨人ドラ1西舘勇陽は中学時代「三刀流」 クロカンスキーは全国大会出場の実力の持ち主

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須江監督を怒らせた東北大会準決勝

 西舘家は男3兄弟だ。長男は大輝さん(25)。1学年上の兄・洸希さん(23)は投手として盛岡三高、筑波大を経て、今春に社会人野球の七十七銀行へ進んだ。来年のドラフト候補にも挙げられる最速148キロ右腕だ。この2番目の兄が常に目標だった。

「勇陽が2年生の時、野球でも全中大会に出られました。勇陽はショートで、リリーフとしてマウンドに上がる形。投手としては兄の洸希が3年生エースでしたが、全国に行く前の東北大会で思い出があるんです」と市橋教諭がこう明かす。

「準決勝で仙台育英付属の秀光中と当たった。試合前に相手の分析をしたら、年間100試合もこなした上にオール無失点だった。でも一戸中は西舘兄弟の奮闘もあって1点を先制した。すると、秀光中のベンチで烈火のごとく監督が怒っていて痛快でした。その人こそ、後に仙台育英高で全国制覇を果たした須江航監督。その試合は負けましたが、3位決定戦で勝って全中行きを決めました。3年で全国大会に出たこともあって、どちらかというと、洸希の方が多くの高校から誘われました」

 中3の頃、洸希さんは「数学の先生になって高校の野球部の監督になる」と夢を語り、進学校の盛岡三へ。一方、「野球は続けるけど将来は決めていない」とはっきりしなかった西舘は、強豪校の花巻東へ進む。

 盛岡三の洸希さんが3年になった最後の夏、MAX144キロの県内屈指の投手だったが、同153キロの佐々木朗希(2年)擁する大船渡に初戦で敗れた。1年後、今度は決勝で花巻東のエースとなった西舘が朗希の大船渡と激突。西舘は「兄のリベンジ」と静かに闘志を燃やしていたという。朗希は登板しなかったが、花巻東は圧勝して甲子園切符を手にした。

 黙々と仕事をこなす父に似て物静かな性格。闘志を内に秘めるタイプだ。

「ある時、勇陽が『胸が痛くて調子が悪いな』と首をかしげていて、調べたらあばら骨が折れていた。よく投げられたねと。痛みに強いというか、自己主張しないというか……。オレがオレがというタイプではありませんでした」(市橋教諭)

■プロ注目の兄との居残り練習が原点

 小学校時代に4年間野球を教えた一戸スポーツ少年団の小森正三監督(68)は「2人の兄に負けないように、必死に背中を追っていました。黙っていても練習をする子。うちのチームはバントの構えをしてから引くとか、相手が嫌がるようなプレーは禁止しています。勇陽にもお兄さんにも、投げ方の基礎は教えたけど、思い切ってフルスイングしなさいとか、そういうことしかアドバイスしていません。お母さんも運動万能の方でしたよ」。

 調剤薬局で働く母・久美子さん(50)は学生時代、柔道で県制覇の実績がある運動能力の持ち主だ。

 市橋教諭が最後にこう振り返る。

「印象に残っているのは、全体練習や試合が終わった後に、お父さんと洸希と勇陽がよく居残り練習をやっていたこと。他の部員はすぐに帰っちゃいますから。お兄さんと一緒に、捕手役のお父さんに2人で投げ込みながら、その日の試合の反省をしていた。勇陽は熱心な家族と兄というライバルに支えられて、ここまできたんだと思います」

 155キロ右腕は、中大の先輩で「小さい頃のレジェンド」と憧れる阿部慎之助新監督を支えるべく、東京ドームで腕を振る。

西舘勇陽(にしだて・ゆうひ) 2002年3月11日、岩手・一戸町生まれ、21歳。一戸南小3年から野球を始め、一戸中では軟式野球部。花巻東では1年夏からベンチ入り。2年春夏、3年夏と甲子園に3度出場。中大では1年秋からリーグ戦に出場。3年秋にベストナイン。リーグ戦では通算51試合に登板し、12勝10敗。防御率1.95。特技はクロスカントリースキー。185センチ、79キロ。右投げ右打ち。

【連載】23年ドラフト選手の“家庭の事情”

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