長嶋茂雄さんは常に前向きなことしか言わない。「メークドラマ」はその“暗示”から始まった
「11.5ゲーム差も離されて、正直、もうダメなんじゃないかな、と思った。でも、長嶋監督だけはミーティングで『まだまだ、大丈夫。8月にひと波乱ありますよ』と常に前を向いていた。8月になると今度は、『9月にひと波乱ありますよ』と言う。後ろ向きなことやマイナスなことは一切言わない。仮に選手内にもう無理だろうというムードが漂っていたとしても、監督が諦めていないのだから、選手が勝負を投げるわけにはいかない。必ず希望が持てることを言われるんです。これは、長嶋さんだから、のひと言で片付けられないことだと思う。リーダーシップ論のひとつじゃないかと」
続けて、こう言う。
「チームが劣勢になると『目の前の試合を一生懸命戦おう』とか、『一つ一つ勝っていくしかないんだ』とか、そういうコメントを首脳陣が言うケースがある。こう言われると、実は選手はつらいんです。選手だってバカじゃないから、チームの状況やペナントレースの展開は分かっている。首脳陣からこういう言葉が出ると、ああ、ベンチも諦めたんだな、と思うわけです。一つ一つ勝っていこう、というのは正論だけど、それを実際に聞かされると先が見えなくなって、いよいよチームの士気が下がってしまうことがある。少なくとも長嶋監督は一切、そういうことは言わなかった。『きょうは負けたけど、明日勝てばまだ大丈夫』。常にそういう感じでした」