「tenesmus THE VISUAL 冠木佐和子作品集」冠木佐和子著

公開日: 更新日:

「tenesmus THE VISUAL 冠木佐和子作品集」冠木佐和子著

 著者は、世界各国の映画祭で多数のノミネート・受賞歴があるアニメーション作家。イラストレーターとしても活動しており、その過激なモチーフと大胆な構図、そして繊細な表現で多くの人を魅了している。

 そんな著者の世界観をたっぷりと味わえるイラスト作品集。

 なんの先入観も持たずにページを開けば、めくるめく作品世界が押し寄せてくる。

 女性のお尻がこれでもかと迫ってくるのだ。

 シュリンプカクテルのようにガラスの容器に整然と並んだお尻、皮をはいだトウモロコシの代わりに整然と並ぶつぶつぶのお尻、そしておにぎりの具となったお尻に、イクラでできたTバックをずらすと大量の米粒が湧き出すお尻、寝転がってパンツをはこうと高くつきあがったお尻とさらにそのパンツの裾から入り込もうとするお尻、イクラとサーモンとともに米粒のようにお尻が敷き詰められた海鮮丼ならぬお尻丼まである。

 お尻とともに、唇や指、バストなど女性の体のさまざまなパーツが意味ありげに描かれる。

 基本的にお尻を描くことが多いという著者は、その理由を「造形が好きなのと、お尻周辺で行われる出来事が好きだから」と意味深に語るが、作品は「エロいのに、ポップで上品」という謳い文句の通り、エロチックでありながら、どこかユーモアとシュールさをたたえる。

 なぜか登場する女性たちは、全裸なのに空色のソックスだけは身につけている。それがともに描かれる口紅のつややかなルージュやマニキュアの赤や朱、ピンクと絡み合い、何とも見ている者の心をざわつかせる。

 空色のソックスの女性たちは時に大群となって現れ、女性の鼻の穴から湧き出したり、タトゥーのように女性の上半身を覆い尽くしたり、箸でつまんだ乳首から滴り落ちたりする。

 イラスト作品は「アニメーションでは動かすのが大変そうな繊細な表現を後先考えずやりまくれる所が好き」と著者がいうが、大群のようにびっしりと描かれた女性たちは、今にも動き出しそうで、なまめかしい。

 さらにここまででお分かりのように、女性の体とともに描かれるのは主に食べ物だ。

 鼻から出てきたパスタとあや取りをするいくつもの手や、抱擁を交わすように官能的な表情をした米粒だらけの女性の顔、その顎はお尻に代わり、その「お尻顎」から醤油と思われる液体が滴り落ちたり、足の甲に落ちて割れた卵からこれまた大量の女性が流れ出したりする。

 食欲と性欲という人間の根源的な本能を描く作品群。表題の「tenesmus」とは便意があっても便が出ない状態という意味だそうで、まさにたまりにたまった表現という欲望が漏れ出たような作品集だ。

(トゥーヴァージンズ 3850円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相「嘘つき政治家人生」のルーツを発掘! 34年前に自ら堂々と「経歴詐称」を認めていた

  2. 2

    【スクープ第3弾!】衆院選での違法な「有料広告動画」疑惑 宮城自民5陣営“総汚染”で組織ぐるみが浮き彫り

  3. 3

    サバンナ高橋“10年いじめ”問題からにじむ上下関係の悪しき伝統と「吉本の闇」…鬼越トマホーク良ちゃんも参戦

  4. 4

    「投手の墓場」で好投する菅野智之の価値 僕が日本人史上2人目の本塁打を打ったのもクアーズフィールド

  5. 5

    巨人・戸郷翔征トレード獲得に他球団が虎視眈々 「ウチなら再生できる」「環境を変えた方がいい」

  1. 6

    犯人探しはまだまだ続く? 中山功太案件“解決”で強まる「パンサー尾形の件は誰なの?」の疑問

  2. 7

    細木数子と闘った作家・溝口敦氏は『地獄に堕ちるわよ』をどう見たか? “女ヤクザ”の手口と正体

  3. 8

    パンサー尾形や中山功太の告発…お笑い業界の“いじめ体質”はなぜ消えない? ヤンキー文化が残した功罪

  4. 9

    井上一樹氏は今季限りでクビか? 最下位中日で早くもウワサ…次期監督は「井端弘和vs荒木雅博」の一騎打ち

  5. 10

    波瑠&高杉真宙「夫婦格差」新婚5カ月でクッキリ…妻は株上昇も、夫は視聴率低迷の切ない事情