「水島篤作品集恐竜日本画帖」水島篤著
「水島篤作品集恐竜日本画帖」水島篤著
日本画によって恐竜を描いた作品集。
伝統の花鳥風月に代わって恐竜を題材にした日本画と聞いて違和感を抱く人もいるかと思うが、よくよく思い返してみれば、俵屋宗達の風神雷神図屏風をはじめ、竜や麒麟などの霊獣まで、日本画家たちは古来、さまざまな空想上の生き物たちを描いてきた。
ゆえにかつて実在した恐竜がこれまで描かれてこなかった方が、むしろ不思議と言ってもいいのかもしれない。
また日本画に用いられる岩絵の具の原料は、幾万年、幾億年もの大地の記憶を宿す鉱石であり、「恐竜というはるか太古の存在を描く」のに必然を感じると著者は言う。
そんな著者の作品は、恐竜ファンにも人気が高く、国立科学博物館で催された恐竜博2023のグッズの原画などにも用いられてきたそうだ。
表紙を飾るのは、恐竜界のスーパースター、ティラノサウルスだ。
「曙雲竜図」と題された作品で、昇竜図のように暗雲をかきわけて躍動するティラノサウルスの体が、朝日に包まれ暖色に染まり輝いている。
ページを開くと、一転して今度は黒いティラノサウルスが白い雲間からまるで飛び出してきたかのよう顔を出す。浮世絵の大首絵のような作品だ。
両作品とも、描かれるティラノサウルスは、大きく口を開け、その轟くような咆哮が聞こえてきそうな大迫力だ。
「不撓」と題し、3頭のティラノサウルスが一触即発の状態でにらみ合っているような作品もある。
「ゆめうつつ」と題されたギガノトサウルスをモチーフにした作品は、日本画ならではの屏風絵だ。
巨大な頭部に、背中には一面に棘のような突起があり、長い尻尾を持つ恐竜が、大胆なトリミングと余白の美という、屏風絵ならではの技法を駆使して描かれている。
作品によっては、その全体図とともに、一部を原寸で掲載。前述のティラノサウルスやこのギガノトサウルスの原寸図を見ると、恐竜のうろこの一枚一枚がその厚みや質感が伝わるほど立体的に描かれていることがよく分かる。
さらに金を巧みに用いて描かれたティラノサウルスの目など、誰も実際には見たことがないはずなのに、獰猛さと冷静さを兼ね備え、これ以外考えられないほどリアルで、こんな目に見すえられたら震え上がるであろうと想像させられる。
そのリアリティーさは、本書で著者と対談する国立科学博物館副館長で古生物学者である真鍋真氏も「この恐竜が実在したらこんな感じだったのかな」と評するほど。
ほかにも、トリケラトプスやスピノサウルス、ブラキオサウルスなど、図鑑でお馴染みのさまざまな恐竜たちが、日本画という新たな命を与えられ降臨する絶対無比のおすすめ本。
(芸術新聞社 3300円)